オーストラリアにおける稲作経営の特徴と干ばつ時の戦略
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- 佐々木 緑
- 広島修道大
書誌事項
- タイトル別名
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- Characteristics of rice farm management and their coping strategies to drought in Australia
抄録
1.本研究の目的と意義<br><br> オーストラリアでは20世紀前半に米の商業的稲作が開始され、米は輸出作物として生産されてきたが、米を主題とした研究蓄積は少ない。それは、他作物に比較して国内外の市場における米の経済的インパクトの小ささや栽培の歴史が浅いこと、栽培箇所が限定されていることなどが考えられる。しかし、日本は1995年以降、MA米としてオーストラリアから米を輸入しているだけでなく、新TPPにおいてはオーストラリア米に対して無関税の輸入枠を設けることになっている。また、オーストラリアは日本産米の輸出市場としてその規模を拡大しており、オーストラリアの米生産を把握することは今後の日本の米貿易にとっても必要であると考える。そこで本研究は、オーストラリアにおける稲作経営の特徴と2000年代以降頻繁に起こっている干ばつ時の米生産者の経営戦略について明らかにした。<br><br><br><br>2.オーストラリアにおけると米生産の変動<br><br> オーストラリアの米生産量は世界市場の1%にも満たないが、生産量の概ね85%が輸出されている。ジャポニカ系中粒種を主力としており、中粒種米は14%の世界市場シェアをもつ。オーストラリアの稲作は、ニューサウスウェールズ州リベリナ地方に広がる灌漑地域でのみ行われていると言っていい。オーストラリアにおける米生産の歴史や栽培地域については佐々木ほか(2018)が詳しい。その生産量は増減を繰り返しながらも1990年代には100万tを超えたが、2001年をピークに激減している。2000年代に入るとオーストラリアでは大規模な干ばつが頻繁に起こり、灌漑農業は大きく影響を受けている。<br><br><br><br>3. 稲作経営の特徴<br><br> オーストラリアにおける米生産の特徴として、年によって収穫面積と農家戸数が大きく変動すること、大規模で徹底した機械導入によって省力化をしていること、日射量の多さと高収量品種の導入によって収量が世界で最も高いことなどがあげられる(佐々木ほか、2018)。稲作農家1戸あたりの平均的な耕地面積が400haであり、米収穫面積は67.9ha(2017年)であることから、稲作面積比率は17.0%となる。この地域の稲作農家は、水利用制限と塩類集積防止のため、経営耕地の3分の1以下で米を生産することになっている。約75%の米農家が非灌漑作物や牧畜を含め、5つ以上を組み合わせて経営をしている(2015年)。また、稲作は輪作体系に組み込まれており、3年の輪作体系を例にとると1年目の夏に稲作、冬に小麦などの冬穀物、2~3年目は牧草や牧畜で地力を回復させる輪作がとられている。<br><br><br><br>4.水配分と作物選択<br><br> 灌漑地域では、各圃場の入り口に流量計が設置されており、厳しく水使用量が水資源局に管理されている。ここでは土地所有権と水利権は分離して扱われ、水自体が取引される財となっている。灌漑地域には様々な水利権が存在するが、米生産者が一般的に所有している水利権はgeneral securityと呼ばれる普通水利権で、1年以内の売買が可能である。そのため、稲作農家は米生産に配分されている水を売買することも含めてその年に最も利益になる作目を決定し、農場の収益をあげる。灌漑農業では、水生産性が作目決定の重要な指標となる。渇水の年は水価格が跳ね上がるため、30~50%の米生産者が水を特に永年作物を栽培する農家に販売する傾向がある。水を販売しない農家の中には、市場価格が上がっており灌漑を必要とする綿花を栽培する者も多い。反対に水が回復した年は水価格が下がるため、米生産者の30%程度が水を購入している。米は水を最も使う作物であることから、水を有効利用するため、水田からの地表排水を貯水池にためておき、冬穀物の生産に使うなどの再利用もみられる。<br><br>また、2016年からYRM70やYRK5という生育期間の短い新品種が試験的に導入されており、効率的な土地と水利用によって収益をあげることが期待されている。<br><br> 以上のように、オーストラリアにおける稲作は、水の配分量に大きく影響を受けながら、環境に配慮しつつ、収益が見込まれる作物を合理的に選択しながら戦略的に営まれていることが明らかとなった。<br><br><br><br>文献<br><br>佐々木 緑・堤 純・磯野 巧・永田成文 2018.オーストラリアにおける米産業の動向.地理空間、11(1)、63-77.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2018a (0), 102-, 2018
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282763072987520
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- NII論文ID
- 130007539735
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可