『モンスーンアジアのフードと風土』

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • A book titled “Nature, Culture and Food in Monsoon Asia”
  • これまでの取り組みとこれから
  • The past and the future

抄録

1 これまでの取り組み<br><br>2010年5月の地球惑星科学連合の大会において「モンスーンアジアのフードと風土」というセッションを企画したのが端緒である。その後,セッションの成果をもとに一冊の書籍として刊行することに取り組み,2012年9月に明石書店より横山・荒木・松本編『モンスーンアジアの風土とフード』として上梓することができた。その後,2014年1月に同書の英訳出版の企画を立ち上げた。この企画は原稿が思うように集まらずに頓挫しかけるが,2016年12月に企画を再起動させ,2018年7月時点で概ね原稿が集まり,目下,日本地理学会の英文叢書としての刊行を目指している。また,これと並行して,2017年度より日本地理学会に「モンスーンアジアの風土」と題した研究グループを立ち上げ,数次の研究集会を開催してきた。<br><br>一連の活動を通じて,私たちが目指したものはモンスーンアジアの魅力を共有したいということはもちろんであるが,それに加えて自然地理学と人文地理学の長い断絶を超えたいということがある。その際に着目したのが風土という考え方である。ここでは私たちが採用した風土を論じる際の着眼点を紹介したい。以下の3つである。第1はモンスーンアジアの自然環境と農業生産との関わり,第2は自然環境と食品加工や消費とのかかわり,そして第3にはそうした食べ物に対して社会や文化,伝統という側面からの作用である。この枠組みに沿って,都合21人の執筆者が序章を含め12の章と4つのコラムで構成したのが,標題の本である。<br><br>2 風土論再考<br><br> 地理学において風土を論じるときに避けて通れない先駆的業績,あるいは壁でもあるのが,いわゆる和辻哲郎の「風土」である。和辻の生年は1889年,没年は1960年,戦前から戦後にかけて活躍した哲学者,倫理学者,また思想史家とも言われる。ただし,地理学者とは言われない。『風土 人間学的考察』はその代表的な著作の一つで,1935年に刊行された。その内容についてここで議論することはしない。ただし,そのあまりにも大きく,多方面に影響を与えたとされる業績は私達地理学者が風土を論じることを遠ざけさせたという側面がありはしないだろうか。<br><br> もとより風土は和辻の作り上げた言葉ではない。「風土記」に代表されるように古くからある言葉であり,風土,風土記は地誌という意味でもあった。私達はあまりにも地理的なこの風土という言葉と概念をもっと積極的かつ自由に使うべきではないだろうか。和辻の文脈に沿わずとも風土を語っても良いのではないか。和辻の哲学的な風土論は,フィールドに身をおく私たち地理学者にとってはあまりにも抽象的に過ぎるのである。そもそも風土記に描かれた風土は極めて具体的なものであった。そこに描かれてきた風土とは,山や川,産物,人口,習俗,それから地名,それらの膨大な集積である。そこには自然地理学的事象も人文地理学的事象も当然のように含まれている。そのようにして記述されたのが風土であるならば,記述された様々の事象の関係性を読み解くのもまた風土であろう。そこに自然地理学的アプローチと人文地理学的アプローチが共存することのメリットがあると考える。<br><br>  無論,この試行的な捉え方でもある私たちの風土論がどれほど効果的かと言うことには議論の余地があって当然である。しかし,極めて高い多様性を包含しつつも,全体として一つの大気現象ということもできるアジアモンスーンとその大気現象の下で営まれてきた人々の営みを関連づけて捉えようとするとき,その自然環境と社会や文化や伝統といったコンテキストの多様な発現形態を把握するための概念として私たちが古くから持って来た風土という認識は十分な有効性を持っていると考える。<br><br>3 これからのこと<br><br> 風土論に紙数を割いたが,私たちが議論したいのはそれだけではない。モンスーンアジアをどのように捉えるのかという議論も喚起したい。例えばあるものはベンガルをモンスーンアジアの中心と言い,あるものは周辺という。この議論はもっと深めていくことができるだろう。また,私たちのこれまでの取り組みではフード,すなわち食や農に重心をおいて来たが,衣食住の衣や住へもその対象を広げていきたいと考えている。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763073385856
  • NII論文ID
    130007539884
  • DOI
    10.14866/ajg.2018a.0_24
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ