一流柔道選手への体力強化サポートとトレーニング法の開発

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抄録

<p> 本講演では、柔道選手の競技力向上を目的とした筋力トレーニングの実際について、その変遷や選手強化に向けたサポート活動等を交えながら紹介する。</p><p>1.柔道競技における筋力トレーニングの変遷</p><p> 柔道の創始者である嘉納治五郎は、1900年頃からヨーロッパのユージン・サンドウの筋力トレーニング法を採用し、柔道における体力強化の主要な手段として国内で啓発活動を推進した。しかし、嘉納の没後、柔道選手の筋力トレーニングへの取り組みは消極的となり、技を重視する傾向が長く続くことになる。その後、1964年の東京五輪に柔道が正式種目とした採用されたことを契機として、外国選手の中には、持ち前の恵まれた体格や体力に加えて高度な技術を習得する者が増え、国際試合では日本選手の「力負け」が指摘されるケースが相次いでいく。演者は、このような背景の下、バルセロナ五輪後の1992年より2008年北京五輪までの16年間にわたり、柔道男子ナショナルチームの体力強化サポートを担当する機会を得た。</p><p>2.柔道男子ナショナルチームにおける体力強化サポート活動</p><p> サポート開始当初は、古くから根強く残っていた体力強化に対する誤解や、「力よりも技で勝つ」といった考え方などから、壁に当たるケースが相次いだ。そこで、最初の4年間(アトランタ五輪まで)は、トレーニングの必要性についての理解を深めるとともに、トレーニングの環境整備に注力し、次の4年間(シドニー五輪まで)は、柔道の競技特性を考慮した専門的トレーニングを中心としたプログラムに移行した。その後、活動は軌道に乗り、有望選手の技術・戦術的課題に特化したサポート活動に重点を置くことができるようになった。</p><p>3.柔道選手の筋力トレーニング方針</p><p> 柔道は、体重別階級制の競技であることから、競技力向上のためには、体重あたりの筋力を可能な限り高めることが重要であると考えている。特に、日本の重量級選手は、軽量級選手と比較して体重あたりの脚筋力が低い傾向にあり、傷害発生のリスクとしても懸念されている。これらのことを考慮し、国際競技力向上に向けた柔道選手の筋力トレーニングにおいては、階級別に設定した筋力目標値の達成や傷害予防を目的としたプログラムを優先し、その後、個人の課題や目標に応じた戦略的プログラムへと移行する方針を採用した。</p><p>4.柔道の動作特性を考慮した筋力トレーニングとチェック法</p><p> 現場での試行錯誤を通じて考案された筋力トレーニング法の代表例を紹介する。これらは、効果のチェック法としても活用されている。</p><p>①柔道着懸垂:相手の柔道着をつかんで離さない「把持力」を改善することを目的としたエクササイズ。</p><p>②ダンベルスナッチ:技をかける時の引く動作のパワー向上を目的としたエクササイズ。</p><p>③ サイドランジ:水平方向への重心移動や切り返し動作の能力を高めることを目的としたエクササイズ。</p><p>④ 片足4方向ジャンプ:片足でさまざま方向に対して、バランスを崩さずに移動する能力を改善することを目的としたエクササイズ。</p><p>⑤立位トランクツイスト:技をかける際の上肢や体幹のパワー向上を目的としたエクササイズ。</p><p> </p><p> 協力:特定非営利活動法人日本トレーニング指導者協会</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763087479424
  • NII論文ID
    130007581582
  • DOI
    10.20693/jspehss.69.24
  • ISSN
    24241946
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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