<p>三宝随念に関連して,無著に帰せられる『仏随念注』『法随念注』『僧随念釈』という文献がある(以下,無著の三書).また,世親に帰せられる『仏随念広注』という文献もある.他方,確実に世親の手になるものとして『釈軌論』があり,徳慧による注釈『釈軌論注』もある.すべてチベット語訳としてのみ残る.また,無著の三書は,Arthaviniścayasūtranibandhanaでの四証浄解釈に密接に関連することも知られている.</p><p>本稿ではそれらの文献の前後関係について,いくつかのパッセージを比較することによって考察し,以下の結論を得た.1)『釈軌論』が,無著の三書に先行する.2)『法随念注』と『僧随念釈』のほうが,『釈軌論注』よりも後に書かれたものである.3)無著の三書は,チベット語訳の題号に出るタイトルが異なっており(「仏随念」と「法随念」は「注」,「僧随念」は「釈」),梵本のタイトルも他のインド文献に言及されず,無著作として言及するインド文献も見られない.その点で,それら三書は,梵本タイトル,著者性が疑わしい.さらに,『法随念注』と『僧随念釈』は冒頭に四証浄に言及するが『仏随念注』にはそれへの言及がない点で,三書が同一著者によって同一の構想のもとで作成されたことに対する疑義がある.</p>
Journal of Indian and Buddhist Studies (Indogaku Bukkyogaku Kenkyu) 66 (3), 1102-1108, 2018-03-25
Japanese Association of Indian and Buddhist Studies