シナジー効果とリスク分散を考慮したリアルオプション手法 による合併・買収の評価モデルについて

書誌事項

タイトル別名
  • Valuation model of mergers and acquisitions by the real options method: synergy effects and risk diversification

抄録

合併・買収(M&A)のニュースがしばしばマスコミに取り上げられ,大きな話題となっている.2018年12月には,武田薬品とシャイアーの合併はその買収額が約7兆円と報道されている.これらの報道は、企業が内部投資による事業の拡大よりも,合併・買収という手段によって外部から直接に事業の獲得することにより自らの事業を拡大する経営戦略の表れであろう.歴史的には,規制緩和と経済のグローバル化が合併・買収を促進してきた.このような合併・買収の波については文献としてWeston et al. (1990)があるので参照されたい. 企業が合併・買収を希求する目的や動機として,①市場占有力を高める,②新分野への進出,③経営の効率化,④スケールとスコープの拡大,⑤経営戦略とコーポレイトガバナンスなど様々なものが考えられる.また,合併の型として,①同一産業内での競争関係にある水平型合併,②流通経路上のサプライヤーと発注元メーカー(供給者と消費者の関係)間の垂直型合併,③産業横断的な事前には関係が希薄な企業間のコングロマリット型がある.今日の巨大IT企業のプラットフォーマーはコングロマリット型に相当する.合併の動機やニーズおよび合併の型は,業界ごとに企業規模ごとに或は合併・買収の手段や買収額の支払方法によって異なる. 合併・買収に関する研究には,数多くの実証研究や事例研究があるが,理論的または解析的な研究は少ない.本研究では,1)合併のタイミングと買収額を決める問題,2)対象企業と買収企業および合併後の企業の収益構造にシナジーとリスク分散をモデル化,3)合併前と後の企業収益とリスクの比較,の3点を理論的枠組とするシナジー効果とリスク分散の視点から合併・買収の評価モデルを提案する. さらに,合併のインセンティブと買収額がどのようにリンクしているかを明らかにし,合併領域はモデルのパラメータによってどのように変化するかを定性的に数値的に論ずる. ファイナンスのポートフォリオ理論は,投資家の 富の形成理論であるのに対して,合併・買収は巨大な 富の形成ばかりでなく企業集団の形成のための経営 戦略である.本論文では,将来の利潤フローを生成す る実物資産としての経営資源組み合わせの最適化手 段であるとの観点から合併・買収を論じた.さらに, 何時どのような環境条件の下で合併・買収が起こり 易いかを考察した. 経済のグローバル化と規制緩和が国を超えた合 併・買収をより活発に促進してきたという事実は,シ ナジー効果とリスク分散がそのエンジンの役割を果 たしたに違いないであろう.しかし,国を超えた合 併・買収ではシナジー効果や買収額は関税や為替に 依存するから,規制強化や産業の保護政策は国を超 えた合併を抑制する方向に働くであろう.今日の資 本市場において金融投資および設備投資等への実物 資産への投資額と比して合併・買収への投資額が 益々大きな割合を占めるであろう.従って,合併・買 収が効率的な資本市場の形成にどのような役割を果 たすかの理論的研究が望まれる.また本モデルでは, 買収企業も対象企業も共に相手の利潤フローについ て完全な(確率的)情報を持つと仮定している.相手 企業の収益構造について不完全な情報しかない場合 や評価ミス(misvaluation)の研究は今後の課題である. また合併の合意時期と合併企業のスタート時期に時 間的遅れがあるために,相手企業の評価に認識のズ レを取り入れたモデルは興味深いテーマである.

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参考文献 (1)*注記

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