正四角台塔をユニットに持つ反強磁性体が示す電気磁気効果

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タイトル別名
  • Magnetoelectric Effect in Antiferromagnets Made of Square Cupolas
  • 最近の研究から 正四角台塔をユニットに持つ反強磁性体が示す電気磁気効果
  • サイキン ノ ケンキュウ カラ セイ ヨンカクダイトウ オ ユニット ニ モツ ハン キョウジセイタイ ガ シメス デンキ ジキ コウカ

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抄録

<p>電気磁気効果は,電場によって磁化が誘起されたり,磁場によって電気分極が誘起されるといった電気磁気間の交差応答現象である.これは,電流よりも電力消費量がはるかに少ない電圧による磁化制御や,THzの周波数領域における高速磁化制御が可能であるなど,デバイスへの応用の観点からも注目を集めている現象である.電気磁気効果の発現は,系がもつ対称性と密接な関係がある.電場Eと磁場Bは,それぞれ空間反転と時間反転対称性を破る外場である.EB=0においてこれらの対称性を有する系では,EBの反転に対して自由エネルギーFが不変である.したがって,FEBで展開したときの最低次の結合項をαμν Eμ Bνと表すと,αμν=0である.この結合係数αμνは線形電気磁気テンソルと呼ばれる.これより,αμνが有限の値をもち,EBに関して線形の電気磁気効果が発現するためには,空間反転と時間反転対称性が両方とも破れている必要がある.</p><p>これらの対称性が同時に破れた反強磁性体Cr2O3ではじめて線形電気磁気効果が確認されたのは1960年のことである.その後,2003年のTbMnO3における巨大な非線形電気磁気効果の発見を契機として再び注目を浴びることとなった.これまで主に,同物質で見られた螺旋磁気構造に伴う電気磁気効果が精力的に調べられてきたが,最近では,これらとは趣の異なるものとして,磁気多極子が引き起こす電気磁気効果が注目を集めている.ここでいう磁気多極子とは結晶中の複数の磁性イオンが織りなす空間反転と時間反転対称性を同時に破ったスピン配列のことであり,例えば平面上の渦状スピン配列がそれにあたる.それでは,こうした磁気多極子型のスピン配列はどのような系において実現するのであろうか? また,その電気磁気効果の微視的起源は何か? これらの問いに対する我々の実験と理論の協働研究を紹介する.</p><p>我々が磁気多極子を実現する系として着目したのは,空間反転対称性を破る磁気ユニットを内包する磁性体である.その典型例が,Cu4O12ユニットを内包する反強磁性体Ba(TiO)Cu4(PO44である.このCu4O12ユニットは,第4のジョンソンの立体「正四角台塔」に類似した凸状構造を形成している.この非対称な形状と反強磁性的なスピン間相互作用に由来した非自明なスピン配置が期待される.実際,Ba(TiO)Cu4(PO44において,磁気転移温度(TN=9.5 K)以下で,磁気四極子型のスピン配列が発生することが中性子回折から明らかとなった.さらに,TN近傍で,磁場による反強誘電状態の発現を示唆する特異な誘電異常が観測された.</p><p>この誘電異常の起源を明らかにするには,本系の磁性を記述する理論模型が必要である.我々は,全磁化曲線に見られた磁場方向に依存した顕著な磁化ジャンプを手掛かりとして,磁化曲線全体を再現する理論模型の構築に成功した.この模型を用いて電気磁気効果に起因する誘電率の磁場変化を計算したところ,TN近傍で観測された反強誘電的誘電異常もよく再現することがわかった.</p><p>この模型の特筆すべき点は,スピン配位の非共面性が,正四角台塔の凸形状由来の反対称相互作用によることを明らかにした点である.このことから,凸状構造を有する他のジョンソンの立体型の磁気ユニットが実現できれば,同様の機構を通じた多彩な電気磁気活性が期待できる.さらに,磁場中で種々の磁気秩序相と電気磁気効果が現れることが模型計算により予測されており,今後の実験を刺激している.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 73 (10), 715-719, 2018-10-05

    一般社団法人 日本物理学会

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