日本の農耕地における腐朽質泥炭土の分布規定因子

DOI
  • 森下 瑞貴
    首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学域
  • 川東 正幸
    首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学域

書誌事項

タイトル別名
  • Controlling factors for the distribution of sapric peat soils in Japanese agricultural fields

抄録

1. 背景<br><br>泥炭土は湿地植生が優占する環境下で植物残渣が集積することにより形成される有機質土壌である。日本では泥炭土の大部分が沖積または沿岸低地に分布しており、その多くが農地利用されてきた。農地排水は泥炭の酸化分解を促すため、低地における泥炭土の分布域では分解度の高い“腐朽質泥炭土”が多く確認される。一方で、日本の低地に分布する泥炭土には、無機鉱物の混入量が多いという特徴がある。阪口(1974)は、泥炭の分解を促す因子として、地下水位の低下以外に、“無機物質の混入に伴う泥炭中への養分供給や通気性の上昇”を挙げている。したがって、低地における腐朽質泥炭土の生成論は、農地排水だけでなく無機鉱物堆積に影響する地形条件も考慮すべき点で非常に複雑である。そこで本研究では、農耕地における腐朽質泥炭土の生成因子に関する知見を得るため、土壌、地下水状況、地形条件の空間分布に関するGISデータに数量化Ⅱ類を適用することで、腐朽質泥炭土の分布環境を判別するモデルの構築を試みた。<br><br> <br><br>2. 手法<br><br>(国研)農研機構が提供する『5万分の1農耕地包括土壌図』のうち、全国の有機質土壌大群の分布域を“腐朽質泥炭土(Sapric)”と“その他の泥炭土(non-Sapric)”に区分した。さらに、それぞれの分布環境を地下水位、排水状況、地形分類、堆積物の粒度の組み合わせに応じて細分化した(表1)。これにより、解析範囲の環境条件は96通りに区分された。そして、各組み合わせについて分布頻度に応じた標本数を設定し、数量化Ⅱ類を用いてSapricとnon-Sapricの分布域の判別モデルを算出した。なお、解析対象は使用したGISデータ(表1)の提供範囲が全て重なる地域について行った。また、解析は対象地域が無機質表層を持たない場合(111.8 km2)と持つ場合(945.9 km2)に分けて実施した。<br><br> <br><br>3. 腐朽質泥炭土の分布条件<br><br> 本研究の結果、泥炭土が無機質表層を持たない場合、腐朽質泥炭土は、後背湿地を除く氾濫平野上にあり、粗粒な堆積物と良好な排水状況に特徴づけられる地域に分布しやすいことが示された。また、表層条件間の比較により、鉱質土壌による表層被覆によって埋没泥炭の分解が抑制されている可能性が示唆された。以上のように、判別モデルを構築することにより、オープンソース化されたGISデータから腐朽質泥炭土の生成および分布に対する各環境因子の寄与率を表現することに成功した。本手法は各種データベースを利用して他の土壌群にも適用できる可能性がある。<br><br> <br><br>文 献<br>阪口豊1974.『泥炭地の地学―環境の変化を探る』東京大学出版会

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763119342720
  • NII論文ID
    130007628502
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_200
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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