軽井沢における現役世代都市住民の移住とライフスタイル

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タイトル別名
  • Migration of working-age urban residents to Karuizawa and their lifestyle.

抄録

1.研究の背景と目的<br><br>先進国では,生活の質の向上を目的とした「ライフスタイル移住」が注目されている.近年その主役となっているのは,30~40代の現役世代である.日本でもオルタナティブなライフスタイルを志向する移住者が増加しており,移住先として地方農村や遠隔地域が選ばれてきた.しかし,大都市圏超郊外のリゾート・退職移住者地域にも現役世代が移住するようになり,独自のライフスタイルを構築していることが報告されている.既往研究で扱われてきた地方の事例とは移住の目的や経緯が異なると考えられるため,そこでみられるライフスタイル移住のあり方についても検討を加える必要がある.<br><br>本研究では,移住世帯の移住プロセスを捉えることによって,大都市圏超郊外のリゾート・退職移住者地域への現役世代のライフスタイル移住にみられる特質の解明を目的とする.対象として,新幹線通勤や独自のライフスタイルの実現を目的とした移住者の増加が明らかとなっている長野県軽井沢における現役世代の移住者をとりあげる.なお軽井沢では,1997年の北陸新幹線軽井沢駅開業以降,現役世代の間で東京方面への通勤可能な居住地としての評価が高まった.近年では地価下落や住宅ローンの借りやすさもあり,大都市圏に居住する現役世代の移住が広がっている.<br><br> まず,移住者の社会経済的特性を把握するために,国勢調査を用いて軽井沢に移住した現役世代都市住民の全体像を示す.次に,東京大都市圏から軽井沢へと移住した現役世代の移住過程を明らかにするために,おもに新幹線開通後に移住した移住世帯22世帯にインタビュー調査を行った.最後に,軽井沢への移住とライフスタイルとの関連性について,移住世帯の出現過程,軽井沢の選択理由,移住後のライフスタイル変化の3点について考察を加えた.<br><br> <br><br>2.結果<br><br>結果は以下の通りである.移住前の居住地は都心ならびにその近郊地域が卓越しており,2015年国勢調査では軽井沢町への30~40代転入者数974名のうち42%が東京・埼玉・千葉・神奈川の4都県からの転入であった(長野県内からは27%).移住世帯の社会経済的属性をみると,世帯主は自宅ないし他県で就業するホワイトカラー職,配偶者は軽井沢周辺でグレーカラー職に就く場合が多い.移住世帯の多くが,軽井沢で庭付きの戸建住宅を購入している.  <br><br>インタビューを行った移住世帯の前住地は,初期移住者は大都市圏郊外が多かったが,近年では通勤利便性などを考慮し都心に居住していた世帯も多い.移住の契機は,都心における子育て環境,職住近接の働き方,住まい方への疑問などが挙げられた.移住先として探索した地域は,軽井沢の他に,那須,熱海,逗子,秩父など,超郊外のリゾート的性格をもつ地域が多い.この理由として,自然に囲まれた静かな環境での生活や,広い家での暮らし,快適な通勤を挙げる世帯が目立った.その中で軽井沢を選択した理由には,軽井沢のもつ自然や文化への嗜好に加えて,東京へのアクセス利便性や,近隣都市の存在による生活利便性が高く評価された.移住後は自身や家族の理想とするライフスタイルを試行錯誤しながら構築しており,軽井沢のもつ自然や文化,別荘地域のゆるやかな時間の流れ,東京との距離感などを評価し,仕事や余暇の充実につながっていると感じていた.<br><br> <br><br>3. 考察<br><br>以上の結果を踏まえると,軽井沢へと移住する現役世代は,都心での職住ライフスタイルに懐疑的視点をもった,比較的社会階層の高い人々であるといえる.こうした層は都心回帰の進行や,郊外の衰退などの大都市圏の居住環境の変化に呼応して出現したと考えられる.彼らの就業基盤は東京にあり大都市圏出身者も多いことから,大都市圏との関係性を切り離せない.そこで,大都市圏に近接しながらも,高いアメニティをもち,ライフスタイルを変えることのできる移住先として超郊外地域を探索する.移住世帯は,東京には存在しない軽井沢独自の「自然」「文化」「ゆるやかな時間の流れ」「東京との距離」といったアメニティを利用した習慣を構築し,日常的なライフスタイルの一部とすることによって,生活の質の向上が達成されていた.<br><br> このことは,大都市圏超郊外のリゾート・退職移住者地域では,地方におけるオルタナティブなライフスタイルを求めた現役世代の移住とは異なり,大都市圏的なライフスタイルの再構築を求めた現役世代の移住がみられることを示している.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763120178688
  • NII論文ID
    130007628468
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_185
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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