諌早湾自然干陸地における植生遷移と土壌生成

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タイトル別名
  • Vegetation succession and Pedogenesis in Isahaya polder

抄録

1.はじめに<br> 第2次世界大戦後、日本では食糧増産のために水田利用を目的とした大規模干拓が実施された。しかし、その後のコメの生産量調整政策により消費量と生産量ともに減少傾向にあるため、現在では水田だけでなく畑地としての農地利用や工業用地として利用されるなど、様々な土地利用が行われている。農地利用において、干拓地土壌ゆえのヘドロ地盤、塩害、土壌の酸性化が問題視されており、これらに対する土壌改良の研究が行われてきた。しかし干拓地土壌における土壌改良の農業生産性向上への効果や農地利用に伴う土壌特性変化に関する知見は得られているものの、干陸後自然条件下における土壌生成に関する研究は少ない。一方、諫早湾干拓では自然干陸地において異なる植生による土壌構造の違いが確認された(Kawahigashi, et al. 2018)。研究対象地の諫早湾自然干陸地は干拓農地の前面に位置し、1997年の干拓以降、土地利用されていない。各異なる植生に応じた土壌構造の形態と発達が確認されたことからそれぞれの植生分布に応じた土壌生成過程を経ていると考えられる。そこで本研究では海や湖沼の底質が、干拓とその後の土地利用等の人為影響をうける中での土壌生成を明らかにすることを目的とし、異なる植生下での土壌断面調査および土壌理化学性の分析を行い、各土壌の特性を調べた。<br>2.手法<br> 諫早湾自然干陸地を対象とし、セイタカアワダチソウ群落、セイタカアワダチソウ-ヨシ群落、ヨシ(高草丈)群落、ヨシ(低草丈)群落の異なる植生下で土壌断面調査を行った。各土壌を層位ごとに土壌の攪乱試料および100mlの不攪乱試料を採取した。不攪乱試料からは遠心分離により土壌間隙水を採取した。この土壌間隙水、土壌の不撹乱試料および撹乱試料を用いて理化学性の分析を行った。<br>3.結果および考察<br> セイタカアワダチソウ群落では角塊状構造、ヨシ(低草丈)群落では壁状構造、セイタカアワダチソウ-ヨシ群落およびヨシ(高草丈)群落では亜角塊状構造として土壌構造がみられた。それに伴い水分含量にも違いがみられ、土壌の乾燥化に伴いヨシ(低草丈)群落、ヨシ(高草丈)群落、セイタカアワダチソウ-ヨシ群落、セイタカアワダチソウ群落の順に植生遷移していると考えられた。さらに植生遷移と並行して土壌の特性も変化していると考えられた。土壌間隙水中のNaとClのモル比が1:1であったこと、ECにおいて土壌間隙水、土壌ともに下層ほど高い傾向を示したことから、干陸地への海水の侵入がみられ、その濃度は上層ほど低く、溶脱によって構造が発達しているほど低くなったと考えられた。土壌間隙水の硫酸イオン濃度が高く、各層位内でもバラツキがあったことから、海底に存在していたパイライトが酸化し、硫酸イオンが生成したと考えられた。一方、次表層以下で集積した貝殻の分解・中和により土壌はアルカリ性に保たれていた。土壌の炭素率、土壌間隙水の全有機体炭素と全窒素比(TOC/ TN)はそれぞれ一様であったが、セイタカアワダチソウ群落の上層のみで土壌間隙水におけるTOC/TNが低く、硝酸態窒素濃度が高かったことから背後農地の肥料に由来する無機態窒素の流入があったと考えられた。<br>引用文献<br>Kawahigashi, M., Shinagawa, S. and Ishii, K. 2018. Soils in reclaimed land after drainage in Isahaya Bay. In Ed., Makiko Watanabe, Masayuki Kawahigashi ed. Anthropogenic Soils in Japan 135-146.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763120181120
  • NII論文ID
    130007628513
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_280
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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