大学進学率の地域格差はなぜ縮まらないのか?
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- 豊田 哲也
- 徳島大
書誌事項
- タイトル別名
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- Why increase regional disparity in higher education enrollment in Japan ?
- The reproduction of educational inequality caused by selective population movement among regions
- ―都道府県別に見た学歴の再生産と選択的人口移動―
説明
現代日本において、大学進学率に大きな地域間格差が存在することはよく知られる。しかも、1990年代以降、進学率は大都市圏で上昇が著しかったのに対し地方圏の伸びは鈍く、地域格差が拡大してきたことは、教育の機会平等を保障する政策的観点から看過できない事態である。これまで経済学的研究では、大学立地の偏在が進学コストに違いをもたらすこと、地域の社会経済的条件が進学動機に影響を与えることが論じられてきた。教育社会学では、特に親の学歴が進学率の規定要因として大きな意味を持つようになった点が指摘されている。経済格差や学歴格差が親から子に引き継がれ、格差の再生産と階層の固定化が進むことには社会的な懸念が強い。しかし、こうした世代間の学歴再生産メカニズムを大学進学率の地域格差にそのまま当てはめることはできない。地域間には常に人口流動があり、とりわけ進学や就職を契機として大規模な人口移動が生じるためである。大学進学者は非進学者に比べて人口移動が活発であり、専門的・技術的職業の雇用が多い大都市圏への集中度が高い。その結果、高学歴層の選択的な人口移動と世代間の学歴再生産が相まって、大学進学率の地域格差を拡大させているのではないか。<br>本研究では、2017年の都道府県別大学進学率を規定する要因として、大学教育の供給に対するアクセシビリティ、世帯の所得水準、親世代の学歴を取り上げ、重回帰分析をおこなう。使用するデータは、①2017年の大学進学率(学校基本調査)、②大学収容率のアクセシビリティ(国土地理院ほか)、③世帯の所得水準(住宅・土地統計調査ほか)、④親世代の大卒者率、⑤親世代の大学進学率、⑥大卒人口の増減率、⑦大卒人口の男女比(以上国勢調査ほか)である。ここでは高校生の親世代に当たる1960~69年生まれのコーホートに注目し、その選択的人口移動を表す変数として⑥を設定した(④=⑤×⑥)。変数①を目的変数として2通りのモデルで重回帰分析をおこなう。3つの説明変数②③⑦はいずれのモデルにも含まれる。④を用いた第1モデルでは、変数④と変数②が有意となった。大学進学率の地域格差の要因には、大学へのアクセシビリティの差違と地域の学歴別人口構成が強く作用していることがわかる。第2モデルでは、変数④に代えて変数⑤と⑥を投入したところ、両変数とも有意となった。つまり、1世代前の大学進学率とその後の選択的人口移動の相乗作用として、現在の大学進学率が規定されていることが確認された。以上の分析から、近年大学進学率の地域格差が拡大している要因として、高学歴層が地方圏から大都市圏へ流入する選択的人口移動と、地域における学歴再生産の強まりの相乗効果があることが示唆される。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2019s (0), 302-, 2019
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282763120183424
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- NII論文ID
- 130007628621
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可