山村における世帯経済と農業の継続
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- 山﨑 恭平
- 東京大学教養学部学際科学科地理・空間コース
書誌事項
- タイトル別名
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- Household Economy and Sustainability of Agriculture in Zhongshan Area
- Conducted with Fuse Area in Onan as the Subject
- 邑南町布施地区を対象に
抄録
1、はじめに<br><br> 日本において、中山間地域は国内への食糧供給だけでなく国土保全やレクリエーションの場の提供など様々な機能を果たしており、その維持は非常に重要である。中山間地域は一般に過疎が進んだ地域であることが多く、そうした地域の地域振興策等の議論が盛んである一方、そのような条件不利地域で生活する人々が、どのように生計を立てているかについて、山村集落の各世帯を回り調査したものは見受けられなかった。本研究では、対象地区の約半分の世帯の世帯員の主業とその所得を調査することで、その地区の所得構造と就業基盤を明らかにした。また、国土保全の観点から、中山間地域における農業の継続が重要だが、調査地区3集落のそれぞれの農業に対する取り組み方から、山村での農業の継続において、どのような条件が必要か検討した。<br><br> <br><br>2、研究手法<br><br> 調査地区は、日本の中でも中山間地域を多く抱え、過疎が先進的に進んだ島根県の中でも、中国山地の山間の邑南町内にある布施地区である。邑南町は島根県の中でも人口減少や高齢化が進んだ市町村であるが、近年社会増加を達成した島根県内で数少ない市町村である。布施地区は邑南町の中心地からやや離れた位置にあり、町内でも高齢化が進んでいる地区である。布施地区には農業以外の主な産業はなく、農業も稲作中心で、主な特産物もない。このように、地区内に収入源となる産業のない布施地区において、地区内の就業者のいる世帯を中心に約半分の世帯において、世帯員の現在および過去の主業とその所得、そして、世帯員のライフヒストリーと世帯の農業についてインタビュー調査を行った。<br><br> <br><br>3、研究結果<br><br> 山村における所得構造においては、所得は大きく就業形態と産業によって基底されることが分かった。そして、就業した形態の差から所得の男女差が説明できた。さらに、UIターンした年齢によって所得に差が生じていた。全体として、布施地区の就業基盤は、邑南町内にある3つの事業所の集積地と、そのいずれにも存在する「医療,福祉」の事業所であると結論付けられた。<br><br> 布施地区の3つの集落は、かつていずれも基本的に各農家で完結した経営を行っていた。しかし、現在もそうした集落は1集落のみで、他2集落では集落営農法人を立ち上げ、片方は集落住民が主体となって、もう片方は外部企業に委託する形で農業を継続していた。そして、いずれも補助金に大きく支えられながら、それぞれの方法で若い労働力を確保していることが分かった。<br><br> 最後に布施地区の世帯の変遷を追うことで、就業基盤があり子育てを含めて生活できる条件がそろっていても、世帯の世代交代が次第に縮小していることが分かった。これは、集落内の労働力だけで農業を継続するのが困難になることを意味する。社会増加を達成した邑南町内の布施地区でさえも、このような状況であることから、集落内に主な収入源のない山村では、より深刻な状況が推測される。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2019s (0), 232-, 2019
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282763120187392
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- NII論文ID
- 130007628565
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可