<b>フィリピンの降水量データレスキューから発展した夏季アジアモンスーン変動研究</b>

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Expansion of Asian summer monsoon variability studies through the data rescue of rainfall data in the Philippines

抄録

1.はじめに<br> アジアモンスーン研究に欠かせない気象データは、東南アジア域では歴史的な経緯から第2次世界大戦以降の期間に限られた。その中で、フィリピンでの過去150年間の気象資料が海外の図書館などに離散していることを発見し、この13年間でその多くを収集し、デジタルデータに復元してきた。今回は、過去のフィリピンの気象データを復元する「データレスキュー」の取り組みと、作成したフィリピンの過去125年間の降水量データセットを用いた夏季アジアモンスーン変動研究について報告する。<br><br>2.  フィリピン気象資料の復元<br><br> フィリピンは19世紀までスペイン統治下にあり、イエズス会によって1865年にマニラ気象台が設置され、気象観測がはじまった(Udias 1996)。その後1898年の米西戦争を経て、1901年からアメリカ統治下のもと、第2次世界大戦までイエズス会が気象観測を継続した。“Observatorio meteorologico del Ateneo Municipal de Manila”(1866-1882),” “Observatorio meteorologico de Manila”(1883-1900), “Monthly Bulletins of Philippine Weather Bureau”(1901-1940年8月)のフィリピンの気象資料はイギリス、オランダ、スペイン、カナダの気象局及びハワイ大学と気象庁で収集してきた(Kubota and Chan 2009,赤坂2014)。1940年9月から第2次世界大戦開始(1941年12月8日)までは南方気象調査月報に記録されていた(台湾大学で収集)。第2次世界大戦中は日本軍の第22野戦気象隊が観測し、1942年-1944年の一部の気象月報が、アメリカ議会図書館や気象庁、防衛省で見つかった(小林と山本2013)。1945年2月にはアメリカ軍により気象観測が開始し(NOAA )、1947年からはフィリピン気象局(PAGASA)が気象観測を展開した。<br> アメリカ統治下の1940年には最大300地点以上で気象観測が行われていたが(赤坂2014)、現在PAGASAが展開している気象台とほぼ同じ地点で戦前も観測していた41点を抽出し、日降水量をデジタルデータに復元し、<br>1890-2014年の降水量データセットを作成した。ただし、1900年以前はマニラ以外の地点にデータ均質性の問題があり、使用していない。<br><br>3.  夏季アジアモンスーン変動<br><br>フィリピンはマニラを含む北西側の地域で、夏季に南西の季節風の影響を受けて雨量が増加する明瞭なモンスーンが見られる(Flores and Balagot 1969)。また、夏季モンスーンはエルニーニョ南方振動(ENSO)の影響を受けて年々変動もまた顕著に現れる。エルニーニョが衰退した翌夏に、インド洋の高水温偏差が持続することによる遠隔影響で夏季モンスーンが不活発になる(Xie et al. 2009)。一方で、ENSOは十年規模変動(PDO)の影響を受けてその強度が数十年規模で変動している(Mantua et al. 1997)。このことはENSOに伴ったインド洋からの遠隔影響の強度もまた数十年規模で変動することを意味する。復元したフィリピン降水量データセットを用いると、フィリピンの夏季モンスーンは、インド洋からの遠隔影響が顕著な時期(1970年代以降、1940年代以前)に、ENSOによる年々変動が顕著になることが明らかとなった(Chowdary et al. 2012)。<br><br>フィリピンの夏季モンスーンをもたらす活発な積乱雲域は、その北側に下降気流を強化し太平洋高気圧を発達させ、日本周辺に盛夏をもたらす特徴があり、Pacific-Japan(PJ)パターンと呼ばれる(Nitta 1987)。フィリピンの夏季モンスーンが、数十年規模で変調していることを受けて、PJパターンによる日本の天候への影響もまた、数十年規模で変動していることが明らかとなった(Kubota et al. 2016)。<br><br>さらに、フィリピン降水量データセットから夏季モンスーンの開始時期を定義し、過去120年間を調べ、モンスーン開始が早い時期は台風による影響が大きいことを明らかにした(Kubota et al. 2017)。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763120977408
  • NII論文ID
    130007628563
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_242
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ