高等学校地理学習における各国の官製Web地図の利用とその効果

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  • Using official national web map and effect in geography learning in high school

抄録

地図は高等学校次期学習指導要領「地理」の必修科目「地理総合」では「地図とGIS」という大項目として設定され地理教育の柱の一つとして期待されている。「地図とGIS」はすべての地理学習に際して活用されるという位置づけである。地図の学習を大縮尺/小縮尺、一般図/主題図などの観点で捉えると大縮尺・一般図における地図教材は国土地理院の地形図が代表的存在である。各国の政府地図作成機関発行の地形図も大縮尺・一般図の教材として相応しいものではあるが、購入方法、値段などから利用しやすいとは言い難い。地図は紙媒体から電子媒体へとシフトがされ、国土地理院地形図も地理院地図での利用が進んでいる。諸外国でも同様であり、政府地図作成機関による各国のWeb地図が充実してきており、教育利用の可能性が出てきた。官製Web地図はどの国でも提供されているわけではなく、今のところは欧米の先進国が中心である。基本的には地図による国土の閲覧であるが、拡大縮小、計測などの機能が備わっている。総描などを省き空間データをそのまま表現するものが中心であるが、紙地図と同じ図式での地図表現を提供しているところも少なくない。作図やkml形式などでの保存、断面図や段彩図の作成、3D表現、空中写真の重ね合わせ、統計データを扱った主題図的表現、旧版地形図の重ね合わせなどの機能を備えたサイトもある。<br> 発表者の勤務校である千葉県立千葉高等学校は地理Aが第一学年で必修であるほか、第三学年は文系では地理Bが、理系では地理特講(学校開設科目)が、それぞれ選択科目として開設されている。第三学年の選択科目は授業内容など自由度は高い。そこで、第三学年の地理特講(162名受講)にて「各自の興味があることについて各国官製Web地図とストリートヴューなどの写真を組み合わせ、プレゼンテーションソフトを使って地理的に説明せよ。」という1分間発表を課題とした授業実践を行った。1時限目でスイスの官製Web地図サイトであるswisstopoを紹介し、スイスの概観をしながら機能や利用例を説明した。2時限目ではオランダの官製Web地図サイトを紹介し、50か国程の官製Web地図サイトリストを配布し、プレゼンテーションファイルや提出レポートの作成方法や提出先についての説明を行った。3~5時限目をPC室で各自の実習時間とし、6時限目を発表時間とした。紙の地形図では地形図作業として点を打つ、線を引く・なぞる、面を塗るなどを行い、一般図である地形図を主題図化することで、事象の地理的な理解や説明を行う。スライドショー下ではWeb地形図は複数画面での利用が可能である。ここで、異地点比較、視点変化、縮尺変化、経年変化、3D表現、断面図作成や、通常写真・斜め写真・空中写真と地図を照合させることなどを行う。事象の説明はこれらを組み合わせて行う。生徒の発表は動画地図によるアイセル湖干拓、運河の街ギートホールン、アイスランドのギャオ、エルベ川中流部の三日月湖とその形成、ハンザ都市ヴィスヴィー、囲郭都市ネルトリンゲン、モンサンミッシェルとトンボロ、タウポ湖とカルデラ、ジャイアントコーズウェーの柱状節理、ソグネフィヨルドとその形成などであった。<br> 生徒が作成したスライドは地理的技能を表している。スライド中で点を打つ、線を引く・なぞる、面を塗る、異地点比較、視点変化、縮尺変化、経年変化、3D表現、断面図、通常写真、斜め写真、空中写真について各1点として合計得点を地理的技能得点とした(①)。発表時間での発表と提出レポートは、作成したスライドショーの読み取りを表している。これに地理的な見方・考え方を尺度化したものを当てはめて数値化した(②)。提出レポートの中で一連の授業についての興味関心と有用性について5点満点で答えてもらい合計得点を求めた(③)。また、期末考査中の関連部分の得点(④)を抜き出した。このようにして数値化した地理的技能(①)、思考判断表現(②)、興味関心態度(③)、考査関連部分得点(④)とのそれぞれ間の相関係数と、①と②と③の合計得点で表現される一連の授業全体と考査との関係の相関係数を求めた。地理的技能と思考判断表現にあたる地理的な見方・考え方との間に高い相関関係(r=0.589)があった。各国の官製Web地図を使った作業学習が地理的な見方・考え方を育成していることが示された。<br> 地形図が教育現場で利用されている理由は、統一した図式で国土全体を表現、比較的大きな縮尺、信頼性が高い政府地図作成機関が作成、長年検討されてきた図式、などが教材として相応しいからである。各国の官製Web地図によって地形図学習が諸外国の諸地域でも可能となり、「地理探究」にての活用も期待される。官製Web地図はWebGISに位置付けられることから、GIS利用の観点からも期待される。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763120983808
  • NII論文ID
    130007628658
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_46
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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