関東地方,多摩川・荒川上流河谷における,支流性堆積物の滞留・再移動と後期更新世以降の河成段丘面の形成
書誌事項
- タイトル別名
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- Accumulation and reworking of tributary deposits, and their contribution for fluvial terrace development since the Late Pleistocene in the upper valleys of the Tama and Ara rivers, central Japan
説明
地球表層の物質循環を理解する上では,河川流域における諸地形形成プロセスの相互作用と,その長期的な変化を明らかにし,流域全体の土砂収支を総合的に評価する必要がある.長期的な気候変動に対する河川の応答を評価するためには,河成段丘面の高度と形成年代を明らかにし,河床縦断面形の変化史を明らかにすることが重要であり,これまでに多くの研究が蓄積されている.しかし,氷期の堆積段丘の形成メカニズムや,連続的な外部条件の変化に対する河川の不連続的な河床高度変化の原因に関しては,不明な点が多い.これらの問題を明らかにするために,本研究では,関東山地を流れる多摩川・荒川の上流域において,河成段丘面および構成層の本流性―支流性を識別し,テフロクロノロジーに基づいてこれらの編年を行う.その上で,最終間氷期以降における,両河川の上流河谷の支流合流点付近における河成段丘発達過程(本流―支流の堆積・侵食史),および本流河床高度の変化史を復元する.<br>多摩川上流河谷には,最終氷期の堆積段丘面である青柳面と,晩氷期~完新世の侵食段丘面群である拝島面,天ヶ瀬面が発達する(高木,1990).青柳面は,関東ローム層に覆われ,本流河谷横断方向に傾斜する.その末端部は段丘崖によって切られ,低位の侵食段丘面と隔てられている.青柳面構成層は,最大で約70 mの層厚を持ち,上部は支流性角礫層,下部は支流性の円礫層と指交した本流性円礫層から構成される.上部支流性角礫層中には,箱根東京軽石層(Hk-TP)が,青柳面構成層下部には,御岳潟町テフラ(On-Kt)が挟在する(Takahashi and Sugai, 2018).<br>荒川上流河谷には,最終氷期の堆積段丘面である影森面と,晩氷期~完新世の侵食段丘面群である大野原面が分布する(吉永・宮寺,1986).影森面は,本流河谷横断方向に概ね水平なKM(m)面と,本流河谷横断方向に緩傾斜したKM(t)面に細分される.KM(t)面は,影森面構成層上部を構成し,ATを挟む支流性角礫層によって構成される.KM(m)面は,立川ローム上部ガラス質テフラ(UG)に覆われる本流性円礫層によって構成される.影森面構成層下部には,御岳第1テフラ(On-Pm1)が挟在する.<br>以上のことから,以下の本流河床変動史が復元される.多摩川は少なくとも95 ka以前から,荒川は少なくとも100 ka以前から河床上昇を開始した.河床上昇は,多摩川では少なくとも66 ka以前に,荒川では少なくとも30 ka以前に河床上昇は概ね終了した.その後,17 ka頃までは概ね河床高度が安定していた.その後,わずかに掘り込んだのち,晩氷期~完新世初頭には河床高度が概ね安定し,側方侵食が卓越した.その後,5 ka以降は下刻に転じた.<br>多摩川・荒川上流河谷では共通して,海洋酸素同位体ステージ(MIS)5.3以前に本流河床上昇が開始し,本―支流性堆積物が指交しながら河谷が埋積された.本流河床上昇はMIS 4以前に終了し,その後,MIS 2までは,合流点付近に支流性堆積物が滞留し,支流性扇状地が発達した.その後,晩氷期~完新世初頭には,支流性扇状地の末端部が本流によって侵食され,支流性堆積物が再移動した.<br>多摩川上流域の青柳面,および荒川上流域のKM(t)面は,本流河谷横断方向に傾斜する.またその段丘面は,支流性堆積物によって地形面が構成され,ローム層に覆われる.これらのことから,青柳面およびKM(t)面は,最終氷期の支流性扇状地を由来とするtoe-cut terrace(Larson et al., 2015)である.その末端部は,晩氷期~完新世初頭の本流の側方侵食を受けて失われたと考えられる.<br>多摩川と荒川の河床高度は,MIS 4~MIS 2と晩氷期~完新世初頭の2時期で,概ね安定的であったと推測される.これは,支流性堆積物の滞留・再移動によって,本流の掃流力に見合った量の土砂が供給されたためであると考えられる.本流河床高度が安定し,側方侵食が活発になったために,それぞれの時期に多摩川・荒川流域では,幅の広い侵食段丘面群が形成された.上流河谷内の合流点付近に発達する支流性扇状地は,支流域から本流への土砂供給量の変動を緩衝する役割を持ち,本流の動的平衡状態を達成・維持し,河成段丘面の形成に寄与することが示唆される.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2019s (0), 324-, 2019
公益社団法人 日本地理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282763120985856
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- NII論文ID
- 130007628683
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可