エンタングルメント・エントロピーと共形場理論(<シリーズ>量子論の広がり-非局所相関と不確定性-, 最近の研究から)

書誌事項

タイトル別名
  • Entanglement Entropy and Conformal Field Theory(Quantum Realm-Nonlocal Correlation and Uncertainty-)
  • 量子論の広がり : 非局所相関と不確定性 エンタングルメント・エントロピーと共形場理論
  • リョウシロン ノ ヒロガリ : ヒキョクショ ソウカン ト フカクテイセイ エンタングルメント ・ エントロピー ト キョウケイジョウ リロン

この論文をさがす

抄録

多体系の量子状態が個々の自由度の単純な直積状態としては表せないとき,エンタングルメント(絡み合い)構造が存在しているという.このような構造は量子情報科学において古典的方法を超えた計算・通信手段に欠かせないものとして注目され,その分類・定量化が研究されている.近年,エンタングルメントの概念が従来の枠を超え,物性物理学にも応用されるようになった.特に,基底状態のエンタングルメントを定量的に評価することで,量子臨界点やトポロジカル秩序相の属する普遍性クラスに関する情報が得られることが明らかになってきた.多体状態のエンタングルメントの便利な尺度の一つがエンタングルメント・エントロピー(Entanglement Entropy;EE)である.EEは系の部分領域とそれ以外の領域との間のエンタングルメントを測る指標であり,大まかには領域間の量子的相関の強さを表す.領域の大きさを変えるとき,EEがどのようなスケーリング則に従うかを見ることで,系を特徴づける重要な情報を得ることができる.例えば,一次元量子臨界系においては,一次元鎖中の一区間とそれ以外の領域との間のEEの示すスケーリング則から,背後の共形場理論のセントラル・チャージc(ギャップレス・モードの数の指標)を求めることができる.これは実際に数値解析で臨界点のcを評価する方法として応用されている.また,トポロジカル秩序相においては,背後のゲージ理論を反映した普遍的定数項がEEに現れる.EEは系を構成する個々の自由度でなく領域に着目することで,長距離スケールを支配する場の理論の情報にアクセスできるところにその特徴があると言える.一般に一次元量子臨界系を記述する共形場理論はセントラル・チャージcだけでは単一に定まらないことが知られる.例えば,一次元量子系に広く現れる朝永・Luttinger流体(TLL)は連続的な臨界相を形成し,その中ではcは整数値に固定されるが,いわゆるTLLパラメータが連続的に変化する.TLLパラメータは相関関数や応答関数の冪的振る舞いを決める重要なパラメータである.では,EEやその他の指標を用いて,このような共形場理論のより詳細な情報を引き出すことができるだろうか.最近の研究により,系の中の離れた二区間でのEEが背後の共形場理論についてセントラル・チャージc以上の情報を含んでいることが明らかになった.特に一成分TLLにおいては,一区間と二区間のEEの線形結合を取って得られる相互情報量が,系の詳細によらず,TLLパラメータKのみによって定まる普遍的なスケーリング則に従うことが示された.従来,Kを数値的に決定する際には,相関関数を数値計算と場の理論で比較するなどの方法が用いられてきたが,それにはミクロな自由度と場の演算子の対応関係の知識が必要であった.相互情報量は,そのような知識を要することなく,基底状態から直にKに関する情報を引き出せる点が新しい.現在,この結果の他の共形場理論への拡張やAdS/CFTとの関連も議論され,EEと共形場理論の関係に新たな関心が寄せられている.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 69 (8), 541-546, 2014-08-05

    一般社団法人 日本物理学会

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ