上肢感覚性運動失調を併発した脳卒中片麻痺患者に対する視覚誘導性自己運動錯覚の即時的効果
書誌事項
- タイトル別名
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- 〜運動学的評価と神経生理学的評価を用いた検証〜
説明
<p>【はじめに、目的】</p><p> 視覚誘導性自己運動錯覚(KiNvis)とは,自身の四肢が動いている映像の観察によって,実際には身体が動いていないにも関わらず,あたかも動いているような知覚が生じることである.Kanekoらの先行研究(2007, 2016)では,KiNvisにより健常者の一次運動野興奮性が上昇すること,脳卒中症例の上肢運動機能が即時的に改善することが報告されている.</p><p> 一方,KiNvisによって生じる脳卒中片麻痺患者の運動機能改善に一次運動野興奮性変化が関与するかは不明である.また,感覚性運動失調に対するKiNvisを用いた介入効果の報告はない.よって,本研究では上肢感覚性運動失調を併発した片麻痺症例に対するKiNvisの即時効果について,運動学的・神経生理学的手法を用いて明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】</p><p> 対象は,左視床出血により感覚性運動失調と右片麻痺を呈した50代男性であった. Brsは上肢Ⅳ,手指Ⅳ,下肢Ⅲ,FMA上肢29点,ARAT20点,SIASの運動覚0,触覚2であった.</p><p> 運動錯覚の誘起には自己運動錯覚誘導システム(インターリハ社製)を用い,前腕上部に配置されたモニタに提示された非麻痺側手指屈伸運動(屈曲・伸展相を各3 秒ずつ)を左右反転させた映像を観察した.介入は10 分間とし,5分間隔で2回実施した.</p><p> 介入効果の運動学的評価として,手指屈曲・伸展を各3秒かけて繰り返し行う運動中の麻痺側第一背側骨間筋(FDI),浅指屈筋(FDS),総指伸筋の筋活動を記録した.また,2次元ビデオ方式動作解析システム(Frame-DIASⅤ)を用いて示指屈曲角度変化と指先の総軌跡長を算出した.経頭蓋磁気刺激を用いた評価には8字コイルを使用し,安静時の麻痺側FDIから運動誘発電位(MEP)を導出した.刺激強度は最大出力強度の50%,60%とした.すべての評価は介入前後に測定した.</p><p>【結果】</p><p> 介入後,手指屈伸時のFDIの筋活動が増加した.また,示指屈曲角度変化の動揺が減少した.指先の総軌跡長は280.0㎝から252.5㎝へと減少した.MEPの平均振幅は両刺激強度ともに介入後に増大した(50%: 0.91mV→1.42mV,60%: 1.54mV→2.18mV).</p><p>【考察】</p><p> 本研究結果より,KiNvisを用いた介入は視床出血の脳卒中症例においても皮質刺激による運動誘発電位の増大を導くことが明らかになった.また,このことは手指運動時のFDIの筋活動増大に結びついた可能性がある.一方,手指屈伸時の指先の総軌跡長の減少は,運動失調に伴う手指関節角度変化の動揺がKiNvisによって減少した結果として生じたことを示唆する.</p><p>【結論】</p><p> 本研究は,脳卒中患者を対象としたKiNvisによって,その機能改善に重要な一次運動野興奮性が上昇することを示した初めての報告である.また,本研究結果は,治療に難渋する感覚性運動失調に対する新しいリハビリテーションとしてのKiNvisの臨床的有用性を示唆することから,今後長期的な介入効果を含めた更なる検証が必要である.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は著者が所属する機関の倫理審査を通過した上,症例に対しては十分な説明を行い,同意を得た上で実施した.</p>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 46S1 (0), I-84_1-I-84_1, 2019
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282763134225408
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- NII論文ID
- 130007694223
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可