重症心身障害者の脊柱変形と呼吸器感染症との関連性について

DOI
  • 飛澤 翔
    北海道文教大学大学院 リハビリテーション科学研究科 医療福祉センター 札幌あゆみの園
  • 佐伯 玲子
    医療福祉センター 札幌あゆみの園
  • 奥山 佑香
    医療福祉センター 札幌あゆみの園
  • 中谷 洸斗
    医療福祉センター 札幌あゆみの園
  • 横井 裕一郎
    北海道文教大学 人間科学部 理学療法学科
  • 木村 一志
    北海道文教大学大学院 リハビリテーション科学研究科

抄録

<p>【はじめに】重症心身障害者(以下,重症者)では,異常な筋緊張や運動パターンなどにより多くの場合,脊柱の変形を伴う.森らの研究では,脊柱変形は重症児・者の拘束性換気障害の因子の一つとされており,またAndrzejらの研究では軽度脊柱側弯児では側弯の増加と胸椎部の生理的後弯の減少が肺活量を減少させると報告している.</p><p>重症者の死亡原因として肺炎やその他の呼吸疾患は全体の半数近い割合であるが,脊柱変形と肺炎などの呼吸器感染症に罹患した回数との関連を調査したものはほとんどない.そこで本研究では,脊柱変形の中の側弯と呼吸器感染症の罹患回数について検討することを目的とした.</p><p>【対象】当施設に入所している21名(男性9名,女性12名,平均年齢43.6±11.5歳).全体群(S字カーブは最大角と胸部に近い方の角度の2パターン),気管切開実施群と非実施群,C字カーブ群とS字カーブ群,胸椎部の右凸群と左凸群の各群との相関について調査した.</p><p>【方法】呼吸器感染症の罹患回数は,2017年6月初めから2018年5月末までの1年間の医師診療記録を後方視的調査した.確認項目は「肺炎」,「気管支炎」,「気道炎」,「呼吸器感染」の4つをキーワードとして抽出した.治癒するまでに移行(気管支炎からの肺炎など)があった場合は,「1回」の罹患としてカウントした.また「疑い」での治療も回数に含めた.Cobb角は最新のX線画像から測定し,側弯のタイプ(C字,S字),凸側について調査した.</p><p>【統計解析】各群の呼吸器感染症の回数とCobb角の関係にはピアソンの相関係数を用いた.有意水準は危険率5%とした.</p><p>【結果】S字カーブは胸部に近い方のCobb角とC字カーブを合わせた全体群にてCobb角と呼吸器感染症の罹患回数にr=0.65と中等度の相関が認められ,さらに年齢を制御変数とした偏相関係数はr=0.63となり,年齢の影響は少ない結果となった.</p><p>また,C字側弯の群(n=11)でr=0.75,胸部右凸の群(n=12)でr=0.79の強い相関がみられた.その他の各群では有意な相関は認められなかった.</p><p>【考察】成人においてCobb角の角度と呼吸器感染症の罹患回数に相関がみられた.今回の結果から重症心身障害を呈した成人以降の人では脊柱側弯やそれに伴う胸郭変形によって胸郭の可動性が低下し,咳嗽力の減弱や咳嗽自体がなく痰などの貯留物を適切に処理できないことが呼吸器感染症のリスクを高める要因の1つになっていると考えられる.</p><p>また,側弯のタイプや方向による横隔膜の収縮や内臓の圧迫による呼吸器感染症に罹患しやすい傾向が胸部右凸群やC字側弯群にはあるのではないかと考えられる.</p><p>今回,一部の群や未成年では結果のばらつきや母数の少なさから相関は認められなかったが,小児期からの適切な姿勢管理による脊柱側弯の進行予防によって成人以降の脊柱側弯の軽減が呼吸器感染のリスクを抑えることにつながるため,小児期からの継続的な姿勢管理は重要であると考えられる.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】当施設への入所に際して,入所利用者のご家族または後見人に対し,診療に際し得たデータの研究への利用等についての「個人情報利用同意書」について説明を行い,承諾を得ている.</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), J-80_1-J-80_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763134241536
  • NII論文ID
    130007694319
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.j-80_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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