直視下アキレス腱縫合術後に腓腹神経障害を合併したスキー選手に対する治療経験

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抄録

<p>【はじめに】</p><p>アキレス腱断裂は一般にみられる傷害であり,スポーツ競技中や転倒により生じることが多く,治療方法として保存療法と手術療法のいずれかが選択される.手術療法には直視下縫合術と経皮的縫合術があるが,直視下縫合術の利点として再断裂の危険性が少なく,早期より縫合部の強度が強いとされる一方,組織間の癒着が残存する可能性がある.アキレス腱縫合術後に腓腹神経障害を併発した報告は散見されるが,スポーツ復帰までをフォローアップした報告は少ない.今回,直視下アキレス腱縫合術後に腓腹神経障害を呈したスキー選手の一症例に対する理学療法を経験したため,報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p>年齢:27歳.性別:男性.職業:スポーツインストラクター,フリースタイルスキーヤー.趣味:スケートボード,トランポリン.現病歴:平成XX年5月,スウェーデンでスキーの撮影中,スキーのトップが雪面に刺さって転倒し受傷.現地で診断を受ける.現地で固定し,帰国後に当院受診.同月にアキレス腱縫合術(Kirchmayer法)施行.術翌日より理学療法介入開始.診断名:左アキレス腱断裂.既往歴:右肩関節唇損傷,左橈骨遠位端骨折.主訴:左アキレス腱周囲の伸張痛,左外果上後方から左第5趾外側にかけての痺れ.悪化要因:長時間立位,歩行.軽減要因:安静.Demand:スポーツ活動復帰.</p><p>【評価,リーズニング】</p><p>術後1週</p><p>Pain:左足関節背屈時に腱性部の伸張痛,NRS 4.Tinel sign:外果後上方,第5趾外側にかけての痺れ.Sensory:足部外側に表在覚軽度鈍麻(4/10).Symptom localization test:頸部屈曲・股関節屈曲・膝関節伸展での足関節背屈・踵骨内反位で外果後上方から第5趾外側の痺れ誘発.ROM・End-feel(Rt/Lt):足関節背屈(−30°・firm more elastic / 15°),底屈(40°・firm more elastic / 45°).MMT(Rt/Lt):腓腹筋(5/2−),ヒラメ筋(5/2−).Palpation:術創部周囲滑走性低下.</p><p>術後8週</p><p>Tinel sign:外果後方.Sensory:表在覚軽度鈍麻(1/10).Static alignment(立位):右荷重優位,両前足部回内扁平・外転位,後足部外反(Rt<Lt).Gait(Lt):LR〜MSt時に左骨盤側方移動量減少,TSt時にheel offが認められず,対側骨盤沈下.Dynamic alignment(Calf raise):右荷重優位,骨盤右sway.Joint play(Lt):ankle dorsal glide hypo mobility.ROM・End-feel(Lt):関節背屈10°firm more elastic,底屈45°,MMT(Lt):腓腹筋2+,ヒラメ筋2+,後脛骨筋3,腓骨筋3.Muscle length:左長母趾屈筋,左下腿三頭筋.</p><p>【介入内容および結果】</p><p>患部外身体機能維持,腓腹神経絞扼障害改善,足関節背屈可動域改善,足関節周囲筋筋力増強を目的として,週1〜2回の頻度で理学療法介入を行った.</p><p>術直後からシーネ固定とし,術後1週からアキレス腱断裂用装具(底屈位固定とウェッジを徐々に抜くことで足関節角度の調整が可能)に変更した.その際に装具着用下での全荷重と愛護的な足関節可動域練習,筋力強化を開始した.術後3週でウェッジを2枚除去し,術後5週でウェッジの除去と底屈位固定を解除され,足関節中間位までの動きが許容された.</p><p>術後8週から装具除去し,装具除去下での全荷重歩行を開始した.術後11週でcalf raiseが可能となった.Squat動作時に内側縦アーチの低下が増大し,knee-in toe outが認められたため,motor control exを追加した.術後15週時点で左足関節背屈15°,底屈45°,荷重下背屈25°であり,MMTは左腓腹筋3,ヒラメ筋3であった.足部外側の表在覚鈍麻は消失したが,長時間立位時等には痺れが表出した.unilateral calf raiseが可能となり,背屈位からのunilateral calf raiseやJogging(6.0〜8.0km/h)を開始した.術後17週から,plyometrics exerciseやrunning(8.0km/h〜)を開始した.術後24週でスポーツ復帰となった.</p><p>【結論】</p><p>直視下縫合術では修復腱と皮下組織との癒着が問題となる場合がある.本症例では,シーネ固定時より外果後方から小趾外側にかけて腓腹神経領域の感覚障害が認められたため,組織間癒着による腓腹神経傷害と考え,理学療法を展開した.結果として,感覚障害と足関節可動域改善に至ったが,局在的な痺れの発現は残存した.</p><p>本症例はスポーツ復帰まで6ヶ月の期間を要したが,スキーに復帰するだけではなくハイレベルなパフォーマンスを必要とされるため,継続したトレーニングが必要であると考えられる.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>発表にあたり,本症例に対し発表の目的と意義について十分に説明し,同意を得た.</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-177_2-H2-177_2, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763134560768
  • NII論文ID
    130007693730
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h2-177_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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