左橈尺骨骨幹部骨折後に中環指に限局したVolkmann様拘縮の一症例

DOI
  • 渡辺 康太
    中日新聞社健康保健組合中日病院リハビリテーション科
  • 茶木 正樹
    中日新聞社健康保健組合中日病院リハビリテーション科
  • 後藤 亜矢
    中日新聞社健康保健組合中日病院リハビリテーション科
  • 関本 早織
    中日新聞社健康保健組合中日病院リハビリテーション科
  • 赤根 真央
    中日新聞社健康保健組合中日病院整形外科
  • 中尾 悦宏
    中日新聞社健康保健組合中日病院整形外科

書誌事項

タイトル別名
  • -筋剥離術後の筋のamplitude獲得に向けて-

抄録

<p>【症例紹介】Volkmann拘縮とは骨折や圧挫などを機転とし,重篤な機能障害を引き起こす阻血性筋拘縮である.外固定時の過度な圧迫や動脈性のスパスム,筋膜内の内圧亢進などが原因とされている.今回,Volkmann様拘縮を呈した症例に対し,前腕屈筋群の剥離,前進術を行った症例を経験した.術後理学療法において再癒着の予防,筋のamplitude獲得に留意し,良好な結果を得たため報告する.症例は10代男性で右利き.X年に左橈尺骨幹部骨折を受傷,他院にてK鋼線による橈尺骨の観血的整復固定術を施行.X+6ヵ月に左中環指の手指伸展制限に気付いた.前腕,手関節の可動域制限や神経症状は認めなかった.X+1年1ヵ月に他院で深指屈筋(以下FDP)の腱剥離を施行.その後も中環指の伸展制限は残存し,成長期に伴い更なる増悪を認めたため,X年+6年9ヵ月時点に当院にて前腕屈筋群の剥離,前進術を施行した.術中,FDPと浅指屈筋(以下FDS)は肉眼的に変性所見を認めず,FDPと中環指のFDSを起始部から剥離,前進することで手指伸展制限は改善した.術翌日より理学療法を開始した.</p><p>【評価とリーズニング】術翌日はFDP,FDSの収縮,伸長時に疼痛を認めた.また伸長時は著明な防御性収縮を認め,手指伸展運動には抵抗性を示した.手関節,手指に関節周囲軟部組織性の拘縮は認めず,手関節肢位により手指伸展時の抵抗感が変化した.筋剥離術により手指伸展制限は改善したが,陳旧例であることからFDP,FDSに筋性拘縮が生じていると考えた.手指屈曲時に手関節背屈,伸展時に手関節掌屈運動を認め,動的腱固定効果を用いた手関節の代償が顕著であり,FDP,FDSの筋収縮幅が少ない手指屈伸運動であると考えられた. DIP関節自動屈曲可動域は中指30°環指40°とFDPの筋力低下を認め,力の入れ方が分からないとのことであった.本症は再手術による癒着の可能性と陳旧例であることから屈筋群のamplitudeが得にくい環境であり,術後はFDP,FDSの収縮法の再学習と筋のamplitudeの維持,改善を目的とした手指屈伸パターンの矯正が必要であった.よって,手関節中間位で自動屈曲,背屈位で他動伸展運動を行うことで最大の筋収縮幅が獲得できるよう工夫した.</p><p>【介入内容および結果】術翌日より肘以遠の自他動運動,FDP,FDSのストレッチ,前腕,手関節肢位を変えた手指自動屈曲運動を実施した.また,手関節最大背屈位にて手指伸展保持用static splintを作製し,運動時以外は終日の着用とした.術後2週からは日中をdynamic splintの使用に変更し,屈筋群の筋収縮を行いやすいよう工夫した.また,筋力増強においては,前腕回外位から徐々に回内位とし手関節中間位での自動屈曲運動を積極的に行った.dynamic splintは術後4週まで使用し,夜間の手指伸展保持splintは術後3ヵ月まで使用した.術前の可動域(MP/PIP/DIP)は手関節中間位で中指自動屈曲(97°/106°/88°),環指自動屈曲(95°/112°/84°),中環指とも自動伸展可動域に制限はなかった.手関節背屈位では中指他動伸展(-8°/-58°/-58°),環指他動伸展(-16°/-65°/-62°)と著明な制限を認めた.握力(右/左)は41.5kg/31.6kgであった.患者立脚型評価であるHand20は8点,フォルクマン角度は46°であった.理学療法介入期間は190日であり,最終成績は手関節中間位で中指自動屈曲(92°/110°/82°),環指自動屈曲(90°/115°/70°),中環指とも自動伸展可動域に制限はなかった.手関節背屈位の中指他動伸展(18°/-4°/-8°),環指他動伸展(12°/12°/-12°)となり,手をつく動作は可能となった.握力(右/左)は42kg/27.8kg,Hand20は1点,フォルクマン角度は78°であった.</p><p>【結論】本症例はVolkmann様拘縮であり筋の変性所見は認めず,術後の筋力回復は十分期待できると考えられた.しかし,手術侵襲は大きく容易に再癒着,拘縮するため筋組織の修復期間に沿って固定肢位と運動の管理が必要と考えた.屈曲伸展可動域のバランスが重要となり,術後早期はstatic splintにて炎症症状を増悪させないように屈筋群の適度な伸長を行った.また,dynamic splintは炎症症状の軽減と筋組織の修復に沿って導入し,自動運動の強化に努めた.各装具の使用は可動域と筋のamplitude改善に寄与したことに加え,自主練習時の運動が簡便になり,適切な運動方法の管理が可能となったと考える.理学療法士として通院困難例に対する運動管理には装具の使用が有効であった.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し、本人へ本発表の趣旨を文書にて説明し同意を得た.</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-261_2-H2-261_2, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763134577920
  • NII論文ID
    130007693840
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h2-261_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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