下腿三頭筋収縮が膝窩静脈血流に与える影響の検討

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抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> 下肢深部静脈血栓症(DVT)は,下肢術後などに血液鬱帯や血液凝固能亢進,血管内皮障害を主要因として発症する合併症の一つである。理学療法において,術前術後を通して多くの場合の責任病巣であるヒラメ筋静脈を中心とした血液鬱帯を防止するために,自動的な足関節底背屈運動を促し,筋ポンプ作用による静脈還流を増加させることが推奨されている。足関節底背屈運動による膝窩静脈血流量の増加に関する報告は散見されるが,その適切な運動回数や頻度に関する知見は乏しい。そこで今回,下腿三頭筋収縮と膝窩静脈還流の変化を明らかにすることを目的に研究を行った。</p><p>【方法】</p><p> 年齢20~21歳の健康な男子学生3名を対象とした。対象者の左下腿三頭筋に電極を2箇所に貼付し,仰臥位で左膝関節屈曲50°,下腿が水平となるよう挙上位で下腿の圧迫を避けて固定した。安静120分の後,刺激波形作成・データ記録装置PowerLabで作成した電気刺激波形を下腿三頭筋に与え,筋収縮を誘発させた。安静開始時および刺激開始直前,刺激後1,5,10,30,60,120分の膝窩静脈の直径および血流速度について超音波診断装置を用いて測定した。静脈を円形と仮定して測定値より血流量を算出した。測定条件は,①安静臥位のみ,②電気刺激1回,③電気刺激20回,④電気刺激20回×3セットの4条件とし,それぞれの測定条件間は日を隔てて実施した。電気刺激強度は,事前に調査してVASで2~3となる値を設定し,測定中も随時聴取した。統計学的解析は,反復測定による分散分析を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。</p><p>【結果】</p><p> 刺激電圧は14.1±3.9 V,事前調査時のVASは21.2±2.4mmであった。測定中のVASに有意な増加は認められなかった。刺激1分後の血流量は,安静のみの条件と比較して,刺激1回で1.12倍,刺激20回で1.17倍,刺激20回×3セットで1.01倍に増加したが,有意差は認められなかった。その他,経過中の血流量および平均血流速度に有意差は認められなかった。しかし,電気刺激時の一時的な血流速度の減少および刺激直後の一時的な血流上昇が観察された。</p><p>【考察】</p><p> 筋収縮は,血流量の増加と線維素溶解系の活性化を促し,血管内皮表面でのshear stressの変化を誘発することでDVT予防に寄与していると考えられている。したがって,DVT予防法として血流量と血流速度の変化を指標とした評価は有用であると考えられる。本研究の結果,筋収縮直後のみ血流速度の増加が認められたが,それ以降の速度および血流量増加は認められなかった。これは収縮弛緩に伴う静脈血の還流が生じるのみで,その後還流増加の効果は少ないことを表わしていると考えられる。この結果は,一日あたりに単回の介入回数では効果が乏しく,頻回な介入が必要なことを示していると考えられた。</p><p>【結論】</p><p> DVT予防として下腿三頭筋の筋収縮運動を行う場合,単回の介入では効果が乏しく,頻繁な介入の必要性が示唆された。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は,本学医学倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を説明し,書面にて同意を得て実施した。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), I-128_1-I-128_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763134597888
  • NII論文ID
    130007694126
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.i-128_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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