マカクサル内包梗塞モデルにおけるミクログリアの特性と障害への関与

DOI
  • 加藤 隼平
    国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人間情報研究部門 システム脳科学研究グループ 国立大学法人 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 社会福祉法人 河内厚生会 介護老人保健施設もえぎ野 リハビリテーション部

抄録

<p>【はじめに、目的】私たちの研究グループでは、脳梗塞患者に近いマカクサル内包梗塞モデルの作製に成功し、一次運動野(M1)第V層の運動出力細胞の著明な減少を示した。この現象には、脳損傷後の免疫応答にかかわるグリア細胞の関与が考えられる。特にミクログリアは病巣部に集積することで神経組織の残骸や異物を貪食して脳内環境を維持したり、損傷組織を修復することに寄与する。一方で、ミクログリアの活性化による炎症応答が、ニューロンの変性および細胞死を惹起することが知られており、げっ歯類神経損傷モデルによる研究では、機能回復を阻害する因子となる可能性が示唆されている。本研究では、マカクサル内包梗塞モデルを用いて、種々のミクログリアマーカー分子の発現変化をM1第V層および梗塞部において組織学的に調べることで、内包梗塞後に引き起こされる障害へのミクログリアの関与を検証することを目的とする。</p><p>【方法】マカクサルの内包後脚にエンドセリン-1を注入し、局所的な虚血による梗塞モデルを作製した。ミクログリアマーカーの発現量変化にはそれぞれ梗塞後数時間 (初期)、4日(早期)、2週間および3週間(中期)、1ヶ月および3ヶ月(後期)、半年の凍結組織切片を使用し、免疫組織化学によりマーカーを可視化した。マーカーとしてIba1、CD68(貪食型)、CD86(炎症型)、CD206(抗炎症型)を対象とし、それぞれに対する抗体を使用した。</p><p>【結果】M1におけるIba1発現は梗塞後中期にかけて有意に増加しピークに到達した。梗塞後2週間の組織切片においてCD206はCD68およびCD86と比較して高い発現量を示していた。梗塞部では、Iba1発現量は梗塞後中期にかけて上昇し、発現の上昇は少なくとも梗塞後半年まで持続することが明らかになった。CD68、CD86およびCD206の発現量も、梗塞後前期から2週間にかけて増加することが分かった。</p><p>【考察】M1におけるIba1発現量のピークは、本モデルを用いた先行研究で示されたM1ニューロンの減少を示す時期と同じまたは先行していた。Iba1発現がピークを示す時期には、抗炎症マーカーであるCD206の発現量が高かったことから、ミクログリアはM1においてニューロンを保護し、細胞死を遅延させている可能性が示唆された。梗塞部におけるIba1発現量は、げっ歯類皮質下損傷モデルの報告と比較して長期的に持続していた。Iba1発現量の増加と並行して、CD68、CD86、CD206の発現量も増加することから、梗塞部に存在するミクログリアは長期的に活性化し、損傷組織の貪食および炎症反応と同時に抗炎症作用を示す可能性が考えられる。</p><p>【結論】マカクサル内包梗塞モデルにおけるミクログリアは、梗塞部では抗炎症、炎症の両方に寄与する一方で、M1ではニューロン保護に作用する可能性が示唆された。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】実験に際しては国立研究開発法人産業技術総合研究所における動物実験委員会の承認を受け、実験動物のケアに関するNIHおよびARRIVEガイドラインに従った。実験手順はWeatherallの報告による推奨に従った。サルは湿度と温度および光がコントロールされた状況の下で自由に動くことのできるケージ内で飼育され、12時間点灯 -12時間消灯の生活サイクルのもと、研究者および他のスタッフのモニタリングにより健康管理が行われた。固形飼料、野菜や果物、水は毎日新鮮なものを与え、環境エンリッチメントのため玩具等を与えた。手術はペントバルビタールナトリウム麻酔を施し、痛みによる苦痛を最小限にして行った。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), I-55_1-I-55_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763134612224
  • NII論文ID
    130007694295
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.i-55_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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