上腕骨近位端骨折術後の肩関節拘縮に対し,非観血的関節授動術を実施したが自動運動制限が残存した症例
説明
<p>【症例紹介】40代男性. 仕事中約1mの高さから転落し左上腕骨近位端骨折(Neer分類2part)を受傷した. 受傷翌日に観血的骨接合術(Deltoid split approach, plate固定)が施行された. 手術翌日から自他動運動を開始したが, 疼痛により自動運動が困難な状態が続いたためROM改善に難渋した. 術後6ヵ月でも肩関節拘縮が残存しており,非観血的関節授動術(以下, 授動術)が施行され他動可動域改善が得られたが, 肩峰下インピンジメントによる疼痛が新たに出現し,自動運動制限のため仕事中の梯子の昇降が困難であった.</p><p> </p><p>【評価とリーズニング】術後6ヵ月で肩関節ROM(自動/他動)は屈曲110/125, 外転95/110, 1st外旋40, 2nd外旋40, 2nd内旋20であり, 全身麻酔下で授動術が施行された. 授動術後1週で屈曲120/165, 外転100/140, 1st外旋50, 2nd外旋80, 2nd内旋30だった. 他動ROMは授動術前と比較して屈曲, 外転, 2nd外旋の改善が得られたが, 自動挙上運動の制限が残存した. MMTは, 肩関節外転(三角筋中部線維, 棘上筋)3, 外旋(棘下筋, 小円筋)4, 内旋(肩甲下筋)5, 前鋸筋5, 菱形筋4, 僧帽筋上部5, 中部4, 下部4であった.外転筋力(肩甲骨面外転90°)は徒手筋力計で健側比46%だった. 肩関節外転筋力,回旋筋腱板筋力, 肩甲骨内転筋群の筋力低下が残存していた.また他動屈曲120°外転100°で, 肩峰付近にVAS 90mmの疼痛, クリック音が出現していた. Neer test陽性で, 透視やエコー所見から肩峰下に大結節が通過する際に烏口上腕靭帯とインピンジメントしていることが予測された. 自動運動では他動運動と同じ角度で疼痛が出現するがクリックせず, その角度から挙上困難であった. また, 肩甲上腕リズム異常が観察され, 上腕下垂位では患側肩甲骨が下方回旋・外転位であり, 自動外転すると外転60°程度から過剰な上方回旋がみられた.</p><p> 以上の評価より, 本人の主訴であり,臨床的な問題である自動挙上制限は肩峰下インピンジメントによる疼痛と肩関節周囲筋の筋力低下が大きな要因であると考えた.インピンジメントの解剖学的な原因は不明であるが,他動挙上運動時もインピンジメントが出現しており,肩関節拘縮が要因の1つであると推測した.肩関節内旋制限,つまり肩関節後下方組織の拘縮が残存しており,この影響で肩関節挙上時により上腕骨頭の過剰な上方偏移が生じていると考えた. 評価に加え,棘下筋・小円筋や後下方関節包を中心にストレッチすると即時的に自動屈曲が150°まで改善が得られた.このことから,後下方組織の拘縮がインピンジメント発生に起因していると考えた.また,回旋筋腱板の筋力低下により適切なフォースカップルが形成されず,自動運動時に上腕骨頭の上方偏移が生じると報告されており, 筋力低下の影響で自動運動時に早くインピンジメントを生じ,自動可動域が制限されていると考えた. 自動外転運動後半の過剰な肩甲骨上方回旋運動は肩甲上腕関節の拘縮による肩甲骨の代償運動や, 肩峰下インピンジメントによる疼痛を回避するための現象であると推察された.</p><p>授動術後に生じた自動運動制限の要因は肩関節後下方組織の拘縮による上腕骨頭上方偏移によるインピンジメントと, これを助長している肩関節周囲の筋力低下であると考えた.</p><p> </p><p>【介入内容および結果】肩甲上腕関節のストレッチを中心に介入し,その中でも肩関節後下方組織の伸張を狙い, 上腕骨頭の後方偏移と屈曲・内転運動や, 骨頭の下方偏移と外転運動などを実施した. また, 三角筋や腱板筋群, 肩甲骨内転筋群の筋力強化, 自動運動時の協調運動練習を実施した. 授動術後4週で屈曲(自動/他動)155/165, 外転140/145と改善し, 他動挙上クリック出現時の肩峰下の疼痛はVAS 5mmに軽減した. 他動2nd内旋や回旋筋腱板筋力に大きな改善は得られなかったが, 骨頭の下方, 後方移動などの副運動に軽度改善がみられた.</p><p> </p><p>【結論】自動運動の改善を目的に, 肩関節後下方組織の伸張を重点的に実施したが実際には2nd内旋可動域に大きな改善は得られなかった. 結果的に自動運動に改善は得られたが, 当初の考察とは異なる結果となった. 自動運動改善の要因として, 数字に表れない軽微なROM改善による骨頭の副運動の改善や, 自動運動時の筋力の改善による適切なフォースカップル機能の獲得などが可能性として考えられた.</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき, 対象者には本研究の目的と意義について十分に説明し同意を得た. また, 当院院内倫理委員会の承認を得た.</p>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-108_2-H2-108_2, 2019
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282763134921216
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- NII論文ID
- 130007693579
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可