骨盤底筋の動きをとらえる

DOI
  • 山本 綾子
    甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • ─筋電図を用いた評価と治療─

抄録

<p> 骨盤底筋群は,骨盤の最も底部に存在する筋であり,その機能は膀胱・子宮・直腸の支持や尿道閉鎖である。しかし,妊娠・出産において筋が伸張されることや,分娩時に裂傷など負担を受け,尿失禁などの骨盤底機能不全を生じることがある。また,閉経後の腹圧性尿失禁は骨盤底筋群の弱化が原因の一つである。尿失禁をはじめとする下部尿路障害は,女性のQOLを低下させるとも言われているため,女性のライフステージに応じて骨盤底筋群の機能に目を向け,改善・維持させることは,快適な生活を送るためにも大変重要である。</p><p> </p><p> 骨盤底筋群の動きの評価方法には,視診,骨盤底の体表触診や経腟触診による筋力テスト,経肛門触診,超音波画像装置による測定,膣圧計計測,筋電図計測がある。体表触診は簡便な方法であるため,多くのセラピストがはじめに実施する方法であると思われる。しかし,収縮感覚が得られにくい人や収縮が弱い人の場合は,より感度の高い評価方法が必要となる。その一つとして経腟触診がある。日本ではまだ一般的ではないが,筋の個別評価が可能とされ,欧米では一般的に行われている方法である。その他には,超音波画像装置や膣圧,筋電図による計測といった機器を用いた評価方法がある。これらは,筋収縮の量的・質的評価が可能であり,本セミナーでは,そのうち筋電図を用いた評価方法を紹介する。機器を用いた評価は,結果を視覚的に即座に確認できることから,患者が状態を理解することにつながりやすい。さらに,トレーニングにも用いることが可能であり,患者自身が行った筋収縮の量やタイミングなどが視覚的・聴覚的にフィードバックされるため,筋収縮のコントロール感覚を自覚しやすい。また,結果が数値で表されることにより達成目標が明確となりトレーニングの継続にもつながりやすい。特に筋電図評価は,複数筋の評価が可能なため,骨盤底筋群収縮時に起こる腹筋の代償運動も評価することができる。</p><p> </p><p> 筆者が用いている筋電図の評価では,骨盤底筋群の瞬発的な収縮と持続的な収縮(10秒間,20秒間)を計測する。瞬発的な収縮では速筋の働きを反映すると考えられ,咳やくしゃみの際の禁制機能を評価する。持続的な収縮では,遅筋の働きを反映すると考えられ,尿意を感じてからトイレにたどり着くまでの禁制機能を評価する。また,筋電図からの量的情報(筋活動量,収縮持続時間など)や質的情報(収縮パターン,収縮後の弛緩パターンなど)から個別の骨盤底筋群の機能的状態を解釈する。また,同時に代償的に生じる腹筋群の状態も評価し,問診で得られた情報と照らし合わせて尿失禁を生じる原因を推察している。</p><p> </p><p> 治療は,清書にも示されるように①骨盤底筋群の位置や機能の正しい理解,②自分の身体における骨盤底筋群の位置の理解,③骨盤底筋群の正しい収縮方法の習得,④個々の骨盤底機能に応じたトレーニングの実施,⑤トレーニングの継続という進め方で骨盤底筋トレーニングを実施する。トレーニングにおいて筋電図を用いると,筋収縮の変化を鋭敏にとらえられるため,正しい収縮が行えているか否かについて適切にフィードバックを与えられる。収縮感覚の少ない患者にとっても,自身の収縮感覚と筋電図波形の変化を照らし合わせることが出来るため,正しい収縮感覚を認識しやすいと考える。また,過剰な収縮が起こるが持続力が低い患者においては,トレーニング波形に合わせた収縮練習で収縮程度のコントロールを習得することにつながる。セミナーにおいては,筋電図測定についてMyotrac 3を用いた評価のプロセスを説明し,その治療を腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁のケースを例に紹介する。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H1-65-H1-65, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763134922496
  • NII論文ID
    130007693593
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h1-65
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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