地域在住高齢者のヘルスリテラシー低下と動脈硬化リスク

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抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> 動脈硬化は心血管・脳血管疾患の危険因子であるだけなく、高齢者の骨格筋量や認知機能が低下する要因となり、介護予防の観点からも着目すべき病変といえる。心臓足首血管指数(CAVI)は血圧に依存しない評価指標として、動脈硬化性疾患のリスクを反映する。一方、ヘルスリテラシーは健康情報を獲得・活用する能力を指し、運動や食習慣などの健康行動の実践に関与する。ヘルスリテラシーの低下は、糖尿病などの慢性疾患の自己管理不良や、入院・死亡のリスク増加につながるとされており、動脈硬化の進行にも影響を及ぼすことが予想される。本研究の目的は、地域在住高齢者のヘルスリテラシーがCAVIで測定した動脈硬化リスクに及ぼす影響を検討することであり、動脈硬化の進行予防に向けた理学療法介入の開発に寄与することが期待される。</p><p>【方法】</p><p> 対象は、65歳以上の高齢者向け測定会に参加した300名のうち、閉塞性動脈硬化症の疑いがある者、データ欠損がある者を除いた288名(平均72.4歳、男性99名)とした。動脈硬化指標として、血圧脈波検査装置VS-1500(フクダ電子社製)を用いてCAVIを測定し、9.0以上を動脈硬化リスクありとして判定した。ヘルスリテラシーの評価には、European Health Literacy Survey Questionnaire (HLS-EU-Q47)日本語版を用いた。HLS-EU-Q47は、合計47項目からなる包括的尺度であり、総得点(0-50点)が高いほど、ヘルスリテラシーが高いことを指す。その他の測定項目は、基本属性(年齢,性,教育歴)、Mini–Mental State Examination、歩行速度、服薬数、飲酒・喫煙習慣、身体活動低下の有無とした。なお、国際標準化身体活動質問票に基づき、Inactiveと判定される場合を身体活動低下ありとした。統計解析は、HLS-EU-Q47総得点の四分位群(Q1-4)をカテゴリ化し、CAVI値、動脈硬化リスクありの割合、およびその他の測定項目を一元配置分散分析(2値変数はχ2検定)により比較した。さらに、動脈硬化リスクの有無を従属変数、カテゴリ化した四分位群(Q1-4)を独立変数とし、年齢・性別およびその他の測定項目で調整したロジスティック回帰分析を行った。</p><p>【結果】</p><p> 最もヘルスリテラシーの低いQ1は、最も高いQ4に比較して、有意にCAVIが高値であり、教育歴が短く、身体活動低下の割合が高かった(p<0.05)。動脈硬化リスクありの割合は、Q1:67%、Q2:51%、Q3:49%、Q4:44%で、Q1が最も高かった(p<0.05)。最もヘルスリテラシーの低いQ1をリファレンスとすると、その他の変数による調整後も、Q4は有意に動脈硬化リスクの低下に関連していた(OR[95%CI]=0.44 [0.19-0.98])。</p><p>【結論】</p><p> ヘルスリテラシーの低下した地域在住高齢者では、年齢や身体活動の影響を除いても、動脈硬化リスクが高いことが示唆された。動脈硬化の進行による高齢者の疾病・介護の発生を予防するためには、ヘルスリテラシーに着目し、教育的支援を含めた理学療法介入が重要であると考えられた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に則り、対象者に研究の目的や検査内容、個人情報の保護について書面と口頭にて十分に説明した上で同意を得た。富山県立大学「人を対象とする研究」倫理審査部会の承認(H29-1)を受けて実施した。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), C-79_1-C-79_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763135224704
  • NII論文ID
    130007692784
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.c-79_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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