アレント思想における「私的領域」概念の存立意義

書誌事項

タイトル別名
  • The Significance of the Concept of the Private Realm in Hannah Arendt’s Thought
  • アレント思想における「私的領域」概念の存立意義 : 「私有財産」論に着目して
  • アレント シソウ ニ オケル 「 シテキ リョウイキ 」 ガイネン ノ ソンリツ イギ : 「 シユウ ザイサン 」 ロン ニ チャクモク シテ
  • Focusing on her Private Property Theory
  • 「私有財産」論に着目して

この論文をさがす

抄録

本稿の目的は、従来のアレント研究において充分に検討されてこなかった彼女独自の「私有財産」論に着目し、それと関連づけて彼女の「私的領域」概念の積極的意義を明らかにすることにある。アレントは「私有財産」を、「私的領域」の安定的な存立を保障する効果的な制度として把握しており、生計の手段としての「富」や、貨幣や商品と言った動産として蓄積される「社会的富(資本)」とは厳密に区別している。そして「私有財産」と関連づけられた「私的領域」を、「安全」の原理と「深さ」の次元という二つの積極的意義を有する不可欠にして不可侵の生活領域として把握し、これを根本的に重要視している。<br> しかしながら、「私的領域」の安定的な存立を保障する「私有財産」は、現代社会のもとで多様な形態をとって現出する「徴用」の破壊的な力によって絶えず解体の危険性に曝されており、「私有財産」を解体し「私的領域」の存立基盤を掘り崩す「徴用」の破壊的な作動をいかにして制御するかという問題意識が、晩年に至るまでアレントの関心の一角に位置づいていた。晩年のアレントの議論には「私有財産」の保障という問題提起が見出され、彼女はそれを萌芽的な着想の次元であるが、「福祉国家」による「徴用」の法的規制と「私的所有権」の再定義という形態で「私有財産」の保障の方途を模索していた。このような晩年のアレントが提起した問題を、今日において批判的に継承するために参照しうる議論のひとつとして、本稿では最後にベーシックインカムをめぐる議論に関連づけて検討を試みた。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ