ICTにおけるEUレベルの政策方式の変化がガバナンス・アプローチにもたらす示唆

書誌事項

タイトル別名
  • Implication of governance change in EU’s ICT policy on European governance
  • ―Revised version of “New Mode of Governance”?―
  • ―修正版「NMG」か,それとも原点回帰か?―

抄録

<p> EU(European Union: ヨーロッパ連合)は2000年にリスボン戦略,2010年に欧州2020を発表,成長,競争力,雇用のてこ入れに乗り出した.とりわけICT(情報コミュニケーション技術)が成長や雇用に寄与すると注目され,政策が次々と提案された.リスボン戦略にかかわる政策にはOMC(Open Method of Coordination)という政策方式が採用され,これが研究者の注目を集めた.過去に域内市場統合で採用された法的強制をともなう共同体方式とは異なり,加盟国の自主的な取り組み,とりわけ参加と政策学習とを重視していたからである.OMCはEUにおける「新たな形式のガバナンス(New Mode of Governance)」の展開だと注目され,一大研究潮流を形成した.しかしながらリスボン戦略は失敗し,OMCも所期の効果を発することなく,欧州2020ではOMCという語すら使用されていない.かわりに欧州2020では,マルチ・ステークホルダー参加とオーナーシップが強調されている.本報告は,欧州2020,とりわけそのICT政策における政策方式の変化に注目して,OMCをきっかけに提唱された「新たな形式のガバナンス」の学術的な「新しさ」,ひいてはEU研究におけるガバナンス・アプローチの展開に疑問を提起する.</p><p> 共同体方式からOMCへ,そしてOMCから欧州2020期の政策方式へと移行するさまを検討すると,改めて新たな学術的用語をあてるほど新しい動向だとは判定することができない.EU研究における国際関係論のガバナンス論援用のきっかけが非国家行為主体の参加を射程におくためであり,実証的にも共同体方式においてすら参加と学習がみられるからである.オーナーシップについても,国際関係論においてはガバナンス論の射程のなかに含まれており,EUでも近年財政監視等で用いられている.以上の検討は,EUにみられる政策方式の変化が,新たな学術用語をあてるほど目新しい現象でないことを示唆している.</p>

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参考文献 (13)*注記

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