千曲川流域で生じた令和元年台風19号水害の浸水高や破堤堆積物からみた被害の特徴

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タイトル別名
  • Damage of Typhoon No.19 in 2019 Flood along the Chikuma River

抄録

<p>1.はじめに</p><p>令和元年台風19号がもたらした豪雨で,長野県の千曲川流域では,広範囲にわたって破堤・越水・内水氾濫による浸水被害や,堤防の破損,河岸の側方侵食などの被害が生じた。特に,長野市穂保では,70mにわたって堤防が破堤し,流域住宅の1階部分が浸水する被害であることが明らかとなった。今回,浸水被害を受けた長野市北東部の千曲川流域は,古くから水害常襲地域とされており,1742年(寛保2年)の戌の満水など,過去の度重なる水害が記録されている(信濃毎日新聞社出版局編, 2002)。一方で,長野市穂保の破堤地点付近では,河川礫や砂泥が破堤によって堆積したとみられる破堤堆積物(破堤堆積物:増田, 1998)が確認された。浸水高や破堤堆積物など氾濫時の様子を示す痕跡は長期にわたって保存されないため,記録として残すことが重要である。本研究では,浸水高や破堤堆積物を調査し,千曲川流域における被害の詳細を明らかにする。</p><p></p><p>2.調査地域と調査方法</p><p>調査対象地域は,上流の佐久市から長野市にかけての千曲川流域である。本研究では,先ず発災直後に国土地理院が撮影した空中写真の判読を行い,地形分類図の作成,浸水域や破堤堆積物の分布を確認した。現地調査では,長野市穂保,津野,赤沼,豊野の各地区で浸水高を測定し,破堤堆積物の分布や層相を記録した。また,上流と比較するために,佐久市中込を流れる千曲川支流の滑津川にて,破堤堆積物の調査を行なった。</p><p></p><p>3.浸水高の分布と特徴</p><p>浸水高を測定した長野市穂保,津野,赤沼の集落の多くが自然堤防上に立地する。微高地である自然堤防上の浸水高は約1.8〜2.3mであった。しかし,破堤地点に近い穂保や津野では,激しい洪水流により自然堤防上にもかかわらず,浸水高が2.6〜2.9mと高く,流失家屋も見られた。</p><p>一方,自然堤防周囲の後背湿地では,全体的に浸水高が高く,穂保から赤沼にかけては,2.5〜3.0m,北陸新幹線の車両基地付近や豊野の浅川左岸では,浸水高が3.3〜4.5mと最も高くなった。さらに,破堤3日後に国土地理院が撮影した空中写真によると,浸水高が高かった後背湿地や旧河道の地域では,依然として湛水したままであり,湛水期間が長いことが分かった。</p><p>このように,自然堤防と後背湿地で浸水高に差が生じた。特に北陸新幹線の車両基地付近や豊野の浅川流域では,浸水高が高く湛水期間も長いため,防災上,危険な場所だといえる。</p><p></p><p>4.破堤堆積物</p><p>堤防が決壊した場合,堤内地には破堤に伴う堆積物が残されることになる(堀・廣内, 2011)。破堤堆積物の堆積過程は,越水する時期,破堤直後に河川水が流入する時期,河川水流入後から徐々に減衰していく時期の段階ごとに堆積していくと考えられている(佐藤ほか, 2017)。これらを踏まえて,長野市穂保と上流の滑津川の破堤堆積物の特徴について記述する。</p><p>長野市穂保の破堤堆積物は,砂泥主体で,破堤地点近接地のみ粗い中礫を含む堆積物が見られる。また,堆積物の上に堤防の遊歩道のアスファルトが見られることから,破堤堆積物の堆積過程は,破堤前の越水時に砂泥が堆積し始め,破堤直後に堤体や河川から礫が流出し,中礫を含む層が強い勢いで堆積したと考えられる。</p><p>一方,礫が卓越する範囲は破堤地点の南西に集中しており,西から北方向には洪水流が侵食した落堀が見られることから,激しい水流により堆積物があまり残らなかったと考えられる。</p><p>滑津川の破堤堆積物は,礫径20〜40cmの巨礫や砂が主となっていることや,激流や巨礫の侵食作用により,河岸や土地の侵食が見られたたことから,滑津川の洪水流は巨礫を運搬するほどの高エネルギーであり,逆に泥などの細かい砕屑粒子は堆積しなかったと考えられる。また,稲や草木の傾きなどから洪水流は,激流で破堤し,河岸や土地を侵食しながら,おおむね北西方向の旧河道に沿って流れ,氾濫原に浸水被害をもたらした。</p><p></p><p>引用文献</p><p>信濃毎日新聞社出版局編・国土交通省千曲川工事事務所協力 2002. 寛保2年の千曲川大洪水「戌の満水」を歩く. p206.</p><p>増田富士雄 1998. 堤防決壊堆積物. 堆積学研究会編『堆積学辞典』292. 朝倉書店.</p><p>堀和明・廣内大助 2011. 福井豪雨で生じた足羽川谷底低地の破堤堆積物. 地理学評論. 84. 358-368.</p><p>佐藤善輝・宮地良典・卜部厚志・小松原純子・納谷友規 2017. 鬼怒川中流域,茨城県常総市上三坂地区における平成27年9月関東・東北豪雨の破堤堆積物. 第四紀研究. 56(2). 37-50</p>

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被引用文献 (1)*注記

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390283659865881344
  • NII論文ID
    130007822217
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_254
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
    • Crossref
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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