最低賃金が労働者の賃金水準に与える影響— 福祉業の賃金水準の考察 —

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  • Impact of Minimum Wage on Workers’ Wages in Japan-Trend of Wage Level of Welfare Industry-

抄録

<p>本研究では、⽇本の地域別最低賃⾦が様々な職業で働く労働者の賃⾦⽔準にどのような影響を与えてきたかについて、都道府県レベルのパネルデータを1995~2015 年の期間で構築し、実証的な検証を⾏う。特に、就学前の⼦どもの保育に専⾨的に携わる保育士の賃⾦が他職種と⽐して低賃⾦である傾向が続いている点を踏まえ、保育⼠の賃⾦⽔準と最低賃⾦との関わりに注⽬している。</p><p>景気、物価変動、家計⽀出、労使関係などの諸要因を制御した賃⾦関数の推定結果によると、就業している地域のランクがA からD までの全てのサブサンプルで、地域別最低賃⾦はパートタイム労働者(男・⼥)の賃⾦⽔準だけでなく、⼀般労働者(男・⼥)の賃⾦⽔準に対して、有意に正の相関が確認された。また、差分変数(t 期-t-2 期の変数)を用いて都道府県の固定効果を除去した分析では、一般労働者のケースで最低賃金との間に有意な関係は確認されなかったが、ランクB の地域区分で働くパートタイム労働者(男性)ならびに、ランクA、ランクB、ランクD のパートタイム労働者(女性)の賃金水準に対して地域別最低賃金が有意に正の相関を持った。すなわち、最低賃金の引き上げ幅は、特にパートタイム労働者(女性)の賃金水準の変化に対し、実際に一定の効果を持つ点が示された。</p><p>同様に、就学前児童の保育・教育に関連する職業(保育士、幼稚園教諭)ならびに平均賃金が最低賃金に近い他の職業(ビル清掃員など)の賃金について、パネルデータをもとに賃金関数を測定した。差分変数を用いた計量分析では、ランクD の地域区分に属する地方部の保育士(女性)や幼稚園教諭(女性)に関しては、平均賃金が低い他の職業と同様に、最低賃金がそれらの職業の賃金水準に有意に正の効果を持った。ただし、都市部の地域区分では、最低賃金の引き上げが保育士の賃金水準に与える効果は確認できなかった。保育士は、有効求人倍率が長期間にわたり非常に高い水準であるにもかかわらず、様々な制度の存在により労働需給の調整メカニズムが十分に働かず、賃金水準が他の職業と比べて低い水準にある。地方では最低賃金の引き上げとこれらの職業の賃金水準の変化との間には一部正の相関がみられており、今後は都市部においても最低賃金の役割をさらに高めていくことが期待される。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390283659866046464
  • NII論文ID
    130007822244
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_329
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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