核質量でみる新魔法数34

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  • New Magic Number 34 Observed by Direct Mass Measurements
  • カクシツリョウ デ ミル シン マホウスウ 34

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抄録

<p>量子力学に支配された微小粒子が集まった複合粒子,例えば原子や原子核には,構成粒子数によって,堅固で構成粒子が取り出しにくく,反応等に対して安定な性質が規則的に現れる.複合粒子の安定性は,構成粒子に占有される準位と占有されない準位の間のエネルギー差(ギャップエネルギー)と結びついている.原子内電子の場合,第18族元素(希ガス)は電子遷移が大きなギャップエネルギーに阻まれるため,電子配置が安定で化学反応を起こしにくい.そして,このように安定な原子が規則的に原子番号2,10,18,36,54,86と現れる.</p><p>原子の中心にある原子核にも,規則的安定性がある.原子核は,陽子と中性子(あわせて核子)が集まった複合粒子で,核子は強い相互作用によって原子核内に束縛されている.天然に存在する原子核はおよそ270種類,ほぼ近い個数の陽子と中性子で構成されている.核内核子数の規則的安定性は1933年に見い出された.安定になる核子数はその規則の不思議さから魔法数と呼ばれ,やがて原子核だけでなく複合粒子に安定性をもたらす粒子数を一般に魔法数というようになった.1940年代に入ると,原子核内の陽子,中性子またはその両方が2,8,20,28,50,82,126個のとき,その原子核が安定であることが実験データから確かめられ,魔法数の現れ方からメイヤーとイェンゼンらが原子核の平均場には強いスピン軌道成分があることを示した.</p><p>その後,短時間で壊変する原子核(短寿命核)のイオンビーム生成法が開発されると,実験的研究の対象は天然に存在する核とは陽子,中性子の構成比率の異なる原子核へと急速に拡がってゆく.すると程なく,中性子比率の高い短寿命核において,天然に存在する核の魔法数,中性子数8,20,28の安定性が失われる現象や,中性子数16のギャップエネルギーが増大して新しい魔法数になる現象が発見された.ここから,原子核構造研究は,メイヤーらの魔法数の研究を超え,核内中性子・陽子の個数に伴う核魔法数の変化はどう理解できるか,という新たな問題に取り組むこととなった.</p><p>議論の中,核子間相互作用のテンソル成分に着目したある核理論に注目が集まる.この理論は,上に述べた魔法数変化に説明を与え,その仕組みによって中性子の多いカルシウム-54核(54Ca)周辺で中性子数34が新たに魔法数になると予言した.当然,54Caのギャップエネルギーや励起状態構造など,核構造を反映する実験値が理論の与える相互作用によって再現できるかが論点となり,その検証のため54Caの励起状態探索実験が理化学研究所の短寿命核ビーム新施設RIビームファクトリー(RIBF)で実施された.しかし,励起エネルギー測定値は魔法数化の有力証拠とされたものの結論には至らず,他の物理量による確証が必要とされた.</p><p>魔法数34の議論に終止符を打つため,著者らは54Ca内中性子のギャップエネルギーを測定し,同じく中性子を34個を含む原子核(同調体)のギャップエネルギーとの比較から魔法数化の検証をした.54Caのギャップエネルギーを決めるには中性子35個以上を含むカルシウム同位体の核質量の高精度データが必要である.実験ではRIBF内SHARAQ(シャラク)高分解能磁気分析装置とダイヤモンドを素材とする高速応答検出器による高精度化が図られ,その結果,目的に足る精度で中性子数35から37までのカルシウム同位体の核質量測定に成功した.得られた核質量から導かれる中性子数34と36でのギャップエネルギーの値により,54Ca核内中性子のギャップエネルギーは中性子34個の同調体に比べて増大しており,中性子数34がカルシウム同位体で魔法数となっていることが確証された.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 74 (12), 850-855, 2019-12-05

    一般社団法人 日本物理学会

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