呼吸機能の発達

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  • 金子 断行
    株式会社 目黒総合リハビリサービス 理学療法士

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抄録

Ⅰ.呼吸障害の要因 重症心身障害児(以下、重症児)の呼吸障害は、未成熟性・胸郭呼吸運動障害・上気道通過障害・中枢性が複合的に絡み合い生じる。新生児は頸部制御機構の未成熟、喉頭高位、肋椎関節の鈍角化、横隔膜平坦化等で中枢神経系に障害がなくとも呼吸障害を来しやすい。運動発達の成熟とともに8歳頃までに適正に胸郭が形状発達し、さらに気管分岐・肺胞数増加等の生理学的変化が生じ呼吸運動が発達する。重症児では、このように成長とともに成熟する呼吸機能の発達が停滞する未成熟性が、呼吸障害の一要因となる。重症児の呼吸ケアでは胸郭発達への着目が重要である。 Ⅱ.上気道通過障害 重症児では下顎後退・舌根沈下による中咽頭狭窄を呈しやすい。多くのケースは顎関節の未発達による顎関節形成不全を合併している。その状態のままで長期間放置されると、顎関節の可動性低下や拘縮を来し、下顎挙上・前推が困難となる。また開口や閉口も制限され、口腔内衛生管理や歯肉崩出等の治療も滞る。顎関節拘縮予防には顎の運動を早期より誘導し関節の形成を促す。そのためには食事の治療が欠かせない。また食事の他にも下顎をもちリズミカルに開閉を繰り返す誘導を行うことで中枢性パターン発生器(CPG)が発火し下顎運動が出現しやすい。開閉口が上手になるとさらに、下顎の回旋も誘導していくと顎関節は発達しやすい。 すでに顎関節拘縮が生じている場合は、下顎に直接介入する。 耳朶からの顎関節モビリゼーションを施行するため、耳朶を斜め後方や下方に回旋・牽引しつつ、顎関節の関節包内運動を促すと顎関節周辺の筋緊張が緩和して顎関節の運動性が出現する。 下顎枝からの下顎前推:下顎枝やオトガイから下顎を前推させ、顎関節の運動性を改善させる。下顎を回旋させるよう動かすと良い。ただし下顎枝からの介入は痛みを生じやすいため注意されたい。 下顎を支えながら咀嚼運動を促し、リズミカルに開閉口を下顎回旋を伴い誘発すると顎関節の発達が促進され、顎関節の運動性・可動性が改善される。 姿勢管理では、腹臥位が下顎を前推でき、上気道を開存しやすい。さらに口腔からの分泌物排出・後葉の無気肺予防などの理由で、腹臥位が換気に最も良い。 同肢位で、頸部の軸性の回旋運動を誘導し、頸の緊張状態とアライメントを修正すると顎関節の運動性が誘導できる。これは頭部制御の治療と並行して施行する。 また前もたれ座位のように、体幹をやや前傾させ頸部を軽く後屈位にして、下顎を前突させる姿勢も良い。この姿勢を器具で再現するには適合した顎枕を製作し、前方に置いた机上に取り付けた座位保持装置を作成し、下顎を保持すると良い。 Ⅲ.胸郭呼吸運動障害 胸郭は骨関節が多く安定性には富むが、寝たきりの不動では発達しにくく扁平となり拘束化しやすい。肋椎・椎間関節は特に拘縮を生じやすく、脊椎から起始する肋骨も変位しやすい。さらに胸郭周囲筋群の過緊張は、側彎・変形を来し胸郭拘束化を助長する。治療では、胸郭運動性改善のため、過緊張・低緊張で変性している胸郭周囲筋群へのアプローチとともに、不動で硬化・軟化している皮膚へも介入する。胸郭周囲の皮膚の変性は胸郭呼吸運動を身体表層から阻害する。 介入には、胸郭の皮膚に一側手掌を軽く触れ安定させて、他側の手掌で呼吸のわずかな動きにあわせ皮膚の柔軟性を引き出す。奏功すると、直後に肋骨運動は改善される。 上部胸郭では大胸筋・大円筋・胸鎖乳突筋・僧帽筋・広背筋などの過緊張により、肩関節内旋・上腕骨頭が前方突出し、肩甲帯が上部胸郭に接着し、肺上葉の換気を阻害する。大胸筋の走行に手掌を密着させ把持し、胸郭から肩甲帯を引き離すように操作し、前述の筋群の粘弾性を改善する。同時に肩甲胸郭・胸鎖・肋鎖関節の運動性を引き出しながら、上葉の換気を改善していく。 腰方形筋・肋間筋・胸肋筋・最長筋・広背筋等に過緊張が分布すると、本来の呼吸補助筋としての作用ができず、逆作用で胸郭の運動を制限する。これらの筋群は同時に過活動しており、腹臥位でこれらの筋をひとつずつ分離して把持し、選択的に活動させることで、緊張の緩和と適切な収縮を促す。

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