タイ国における第三の宗派的僧団

書誌事項

タイトル別名
  • The Third Nikāya-like Order in Thailand
  • The Third Nikaya-like Order in Thailand : Ramanna Dhammayuttika, an Unknown Ethnic Mon Order throughout the 20th Century
  • Rāmañña Dhammayuttika, an Unknown Ethnic Mon Order
  • 少数民族モンの僧団ラーマン・タンマユット(c. 1898~2003) の宗派的特徴について

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説明

ラーマン・タンマユット(ラーマンニャ・ダンマユッティカ)は,19世紀末,タイ国のバンコク周辺で生まれた少数民族モンの僧団である。規模は比較的小さく,2002年時点での所属僧院は27院である。この僧団の存在は,現地タイ社会においてさえほとんど知られておらず,タイ国内外の学界もこれまで関心を示してこなかった。本稿は,このラーマン・タンマユットの成立から廃止までの経緯を明らかにするとともに,タイ国公認宗派との関係に注目することで,同僧団が固有の宗派(ニカーヤ)としての特徴を1世紀もの間,維持してきた ことを論じる。また同時に,この事例を通して,宗派の創始,所属変更,統合はどのように行われるのか,民族宗派とは何かという点から,上座部宗派の理解に貢献したい。  タイ国の上座部僧伽については,1902年の僧伽統治法発布を契機として,全ての出家者を余すところなく統治管理するための制度が整えられ,宗派もまたタンマユット派とマハー派(マハーニカーイ)の公認􃧞派のみに限定されて今日に至ると理解されてきた。しかし,ラーマン・タンマユットは,ニカーヤを自称しないものの,創始後から21世紀に入るまで,この2派とは独立した第3の宗派的特徴を示してきた。同僧団は,元々,モン僧の一部がタンマユットに転入することで生まれており,公認宗派別の管理が明確化した1950年代以降 は,制度上,タンマユットに所属してきた。それにも関わらず,同僧団は,マハー派はもちろん,タンマユット派とも具足戒式(出家式)や布薩などの羯磨を共に行わない傾向が顕著であり,この点で固有の宗派としての特徴を持っていたといえる。とくに具足戒式では,白四羯磨をモン式とタンマユット式の2つの発音で唱える独特の実践を続けてきた。かつてモン僧は,誦経発音の違いや,共住しない傾向,あるいは共に羯磨を行わない傾向をおそらく理由として,タイ僧とは別の民族的なニカーヤとしてタイ国内で認識されていたが,ラーマン・タンマユットは,このうちモン式誦経の実践という点でも,タンマユット派内における民族的な下位集団としての特徴を際立たせてきた。2003年,ラーマン・タンマユットは,還俗せずにもう一度具足戒式を受ける「ダルヒーカンマ」(重ね出家式)という儀礼を通して最終的にタンマユット派に統合されたが,ダルヒーカンマが必要とされたこともまた,ラーマン・タンマユットとタンマユットがそれまで別々の宗派であると認識されてきた証左といえよう。

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