含水エタノール中でのベニバナ赤色素の退色動力学

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  • Discoloration Kinetics of Carthamus Red in Aqueous Ethanol

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抄録

<p>食用色素(着色料)は,食品の見栄えや保存性に影響する添加物である.ベニバナの花弁から抽出される色素は天然色素の1つであり,黄色と赤色の色素を含む.黄色の色素(ベニバナ黄)の主体は水溶性のsafflomin AとBであり,赤色色素(ベニバナ赤)のそれは水にもエタノールにも溶けにくいcarthaminである[1-3].ベニバナ赤は食品,化粧品などで使用される[1]とともに,医薬品としての利用も期待されている[4].</p><p>ベニバナ黄とベニバナ赤はともに熱により分解しやすい[1].ベニバナ黄の熱分解は,酸性条件では1次反応速度式に従うが,中性やアルカリ性条件ではそうではない[5].水系でのベニバナ赤の安定性に及ぼす因子については詳細な研究がなされており,高温では橙黄色または黄色の化合物に分解する[6].ベニバナ赤は熱とともに,光に対しても不安定であるが[7],pHが高いと比較的安定である[8].</p><p>ベニバナ赤は水にもエタノールにも溶けにくいが,水とエタノールの混合液(含水エタノール)には比較的よく溶ける(Fig. 1).とくに,エタノール濃度が50~80%(v/v)ではよく溶ける.このように,ベニバナ赤の溶解度はエタノール濃度に大きく依存するが,退色動力学に及ぼすエタノール濃度の影響については報告がない.そこで,ベニバナ赤の退色過程に対する活性化エネルギーと頻度因子に及ぼすエタノール濃度の影響について検討した.</p><p>ベニバナ赤溶液を入れた試験管を,所定の温度に設定したヒートブロックに入れても,反応液はすぐにはその温度にならない(Fig. 2).しかし,ベニバナ赤の退色は比較的速い反応であるため,反応液の温度が上昇する間にも,退色反応が進行し,速度解析を難しくする.一方,反応液の温度が所定の値に達したのちは,ベニバナ赤の最大吸収波長である520 nmにおける吸光度は片対数紙上で時間に対して直線的に低下する(Fig. 2).したがって,ベニバナ赤の退色過程は1次反応速度式に従うと仮定した.また,昇温過程でも退色が進行することを逆に利用し,反応液の温度を時間に対して直線的に上昇させる定速昇温法により,退色反応に対する活性化エネルギーと頻度因子を一度の実験で決定することを考えた[10,11].</p><p>まず,80%(v/v)に溶解したベニバナ赤の退色過程を異なる昇温速度で観察し(Fig. 3),1 次反応を仮定した定速昇温法が適用できることを検証した(Fig. 4).</p><p>つぎに,種々のエタノール濃度におけるベニバナ赤の退色過程を測定し,活性化エネルギーおよび頻度因子を算出した.ややバラツキはあるものの,ベニバナ赤の退色過程に対する活性化エネルギーと頻度因子はエタノール濃度には依存しなかった(Fig.5).</p><p>ベニバナ赤の退色過程では520 nm付近の吸光度(赤色)が減少するとともに,390 nm付近の吸光度(黄色)が増加する(Fig. 2).そこで,種々のエタノール濃度での退色過程に対し,520 nmにおける吸光度の減少ΔA520と390 nmにおける吸光度の増加ΔA390をプロットすると,エタノール濃度に依存せず,1本の直線となった(Fig. 6).</p><p>これらの結果より,ベニバナ赤の溶解度はエタノール濃度に大きく依存するものの,その退色機構はエタノール濃度には依存しないことが強く示唆された.</p>

収録刊行物

  • 日本食品工学会誌

    日本食品工学会誌 21 (3), 141-145, 2020-09-15

    一般社団法人 日本食品工学会

参考文献 (6)*注記

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