量子乱流状態における超流動の2流体模型――量子渦と熱励起成分の相互作用が引き起こす奇妙な現象

  • 湯井 悟志
    慶應義塾大学自然科学研究教育センター
  • 小林 宏充
    慶應義塾大学日吉物理学教室
  • 坪田 誠
    大阪市立大学大学院理学研究科・南部陽一郎物理学研究所

書誌事項

タイトル別名
  • The Two-Fluid Model of Superfluid in Quantum Turbulent State―Strange Phenomena Caused by the Interaction between Quantized Vortices and a Thermal Component
  • リョウシ ランリュウ ジョウタイ ニ オケル チョウリュウドウ ノ 2 リュウタイ モケイ : リョウシウズ ト ネツ レイキ セイブン ノ ソウゴ サヨウ ガ ヒキオコス キミョウ ナ ゲンショウ

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抄録

<p>超流動とは極低温において流体の粘性が消失する現象であり,量子凝縮によって引き起こされる.超流動の流体力学は量子流体力学ともよばれ,様々な量子凝縮系(例えば,超流動ヘリウム4やヘリウム3,冷却原子気体,中性子星)において研究されている.超流動の現象論としてティサとランダウにより2流体模型が提唱されて約80年が経過したが,その理解は未だ十分ではない.その難しさの原因は,2流体が相互作用しながら運動することにある.これは2流体結合ダイナミクスとよばれ,量子流体力学において重要な問題である.近年,実験に大きな進展があり,この問題に挑戦する土台が整った.そこで我々は数値計算により超流動ヘリウム4の2流体結合ダイナミクスの解明に取り組んだ.</p><p>2流体模型によると,超流動ヘリウム4は超流体と常流体の混合流体として理解される.ここで登場した超流体は量子凝縮成分に由来する非粘性の流体である.一方,常流体(熱励起成分)は粘性流体である.超流動中では,これら2流体が別々の密度と速度をもって運動している.</p><p>2流体模型は量子乱流状態でどのような運動を行うのかは解明されていない.量子乱流とは超流体の乱流であり,量子渦が毛玉のようなタングルを形成した状態である.量子渦を介して2流体間に相互摩擦が発生するので,量子乱流状態では2流体が双方向に影響を与えながら運動しているはずである.しかし,実験でそのような2流体結合ダイナミクスを見ることは難しかった.</p><p>ところが,近年の実験の発展により2流体それぞれの運動が可視化できるようになった.2流体模型の描像を明白に可視化した点で,これらは驚くべき実験である.我々は特に次の2つの実験に興味をもった.1つ目は,熱対向流で量子乱流を駆動し,常流体速度場を可視化したものである.この実験では,常流体の層流がポアズイユ流から平坦化することが明らかになった.平坦化の原因は常流体が量子乱流から受ける相互摩擦だと予想されたが,実験では明らかにならなかった.2つ目は,熱対向流中の常流体の速度ゆらぎの測定であり,古典流体力学だけでは説明できない異方的な速度ゆらぎを観測した.</p><p>このように2流体結合ダイナミクスが原因と予想される現象はいくつも観測されてきた.しかし,ほとんどの理論的および数値的研究は1方向結合(常流体速度場を固定する)で行われてきた.そこで,我々は2流体模型を連立して扱い,量子乱流状態において2流体結合ダイナミクスが引き起こす現象を解明したいと考えた.ここでの目標は上述の2つの奇妙な実験結果の原因を明らかにすることである.</p><p>以上のような動機のもと,我々は数値計算を用いて2流体結合ダイナミクスを研究した.超流体は渦糸模型でよく記述され,常流体はナビエ–ストークス方程式に従う.これら2流体を相互摩擦を介して連立することで,2流体結合ダイナミクスをモデル化できる.結果として,我々は計算機上に熱対向流中の量子乱流をつくりだし,実験と整合性のある結果を得ることに成功した.2流体結合ダイナミクスの研究は始まったばかりであり,今後も量子流体力学特有の物理が解明されるだろう.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 76 (1), 28-33, 2021-01-05

    一般社団法人 日本物理学会

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