極東ロシア地域における地域間格差に関する一考察

DOI
  • 市川 聖
    島根県立大学NEARセンター 客員研究員

書誌事項

タイトル別名
  • Study of Regional Inequality in Far East of Russia
  • The Economic Trend of Sakhalin
  • サハリン州を中心とした経済動向

抄録

<p>1.背景および研究の目的</p><p></p><p>市川(2017)では一帯一路の影響により都市開発が進行していた中国・内陸都市おいてフィールド調査をもとにして経済発展の実態を明らかにした。さらに市川(2020)では、前述のフィールド調査をもとにして、バローの絶対的収束仮説を用いて中国における地域間格差が収束傾向にあることを明らかにした。そこではとりわけ2000年代後半から中国では地域間格差が収束傾向にあることが明らかとなった。ところで絶対的収束仮説とは初期の時点での一人当たり所得の水準が低ければ低いほど、その後の地域の成長率は高く、最終的に貧しい地域が豊かな地域に追いつき、格差が収束するという仮説である。この場合に収束係数βとして、その符号が負であれば、一人当たり所得の格差が縮小することになり、さらにその絶対値が大きければ大きいほど格差が大きく収束していることになる。一般的に収束性とは、それまで一人当たり所得などの異なる経済が、将来的にはある一定の所得水準に収斂することを意味する。このことは戦後の日本経済がアメリカ経済に追いつくような状態だと例えられることがある。地域格差との関係で見れば、経済が収束するということは、地域格差が将来的になくなるとも解釈することができる。そこで本報告は市川(2020)と同様の研究手法を用いて、サハリン州を中心とした極東ロシア地域における地域間に関する経済概況を分析したいと考えた。本報告では既存のデータからジニ係数を用いてロシア経済に存在している所得格差を考察し、さらにR.J.バローの絶対的収束仮説と地域内総生産による変動係数の計測を用いてサハリン州における今後の経済発展に関する考察を行った。またこれまでは極東ロシア地域における計量的な分析を行った研究は少なかったため、本報告ではサハリン州を中心とした極東ロシア地域に関する経済分析の糸口になることにも注目したい。</p><p></p><p>そもそもロシアは1991年にソ連の解体以降に物価の急上昇、さらに1998年にロシア国内における通貨・財政危機を招き、経済政策の困難に直面していた。さらに1998年前半には原油価格下落によりエネルギー産業の収益が悪化して税収が減少した一方で、外貨準備が低水準であったことから通貨の下落圧力を高めることになった。しかし近年のロシアはウクライナ紛争を経験しながらも多大な資源を活用してBRICSと呼ばれる新興工業国にまで発展し、「東方シフト」政策による極東ロシアの開発も進められている。東方シフトはプーチン政権が極東・シベリア地域の開発を国家的プロジェクトと位置付け、アジア太平洋地域への接近を試みる政策構想である。以上からも極東ロシア地域に焦点を当てた経済分析を試みることにした。</p><p></p><p></p><p></p><p>2.分析結果</p><p></p><p> (i)ロシアのジニ係数は1992年に0.289であり、その後徐々に経済格差は拡大して2013年には0.419となった。なお1992年から2014年までの期間には2007年前後のジニ係数が最も高く0.422であった。これらの数値からロシア全土では地域間によって経済格差が大きいと考えらえる。(ii)次に1998年から2013年の期間でロシア全域における絶対的収束仮説を推計した。絶対的収束仮説では0.29(t値:1.31)であり、一人当たりGRPの地域間格差は大きいと考えられる。しかし極東ロシア地域の中でもサハリン州ではGRPが大きく増加しており、東方シフト政策の成果であると考えられる。(iii)最後に(ii)の計測結果を踏まえて極東ロシア地域内における変動係数を計測した。その結果からは2013年まで高い数値であり、極東ロシア地域内において経済発展の度合いに大きく相違があるとした。</p><p></p><p>3.まとめと今後の研究課題</p><p></p><p> 本報告では、極東ロシア地域を中心とした地域間格差の動向について検討した。分析方法では、ジニ係数、絶対的収束仮説変動係数を用いた。その結果、極東ロシア地域では地域内での都市開発にも相違があると考えた。近年は「東方シフト」政策により極東ロシアの経済発展が著しい地域もあるといえよう。また今後の研究課題としては、さらに詳細なデータを用いて経済分析を緻密に行うとともに極東ロシア地域における経済発展を日本との経済交流の視点を含めながら検討することである。一方では極東ロシア地域を北東アジア地域の地誌学的な視点からも分析する必要があるともいえよう。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390287525778202240
  • NII論文ID
    130008006613
  • DOI
    10.14866/ajg.2021s.0_180
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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