広島県内の平成30年7月豪雨災害の水害碑の特徴と建立の経緯

書誌事項

タイトル別名
  • The characteristic of memorial monument related to the heavy rain disaster of July 2018 in Hiroshima Prefecture, and the process of the establishing of the monuments

説明

<p>1.はじめに 平成30年7月豪雨(以下,西日本豪雨)では,広島県南部を中心に多数の斜面崩壊が発生し(Goto et al., 2019),平野部では河川の氾濫が生じた(田村・田中,2020)。一連の災害により,広島県内では149名の死者が生じた(広島県危機管理課,2020)。西日本豪雨では,石碑が過去の災害を記録していたことが注目された。</p><p> 自然災害に関する石碑の調査は近年盛んに行われ,地域の災害の履歴が明らかにされつつある(北原ほか,2012;小山ほか,2017;青山,2020など)。一方で,西日本豪雨の水害碑については岩佐・熊原(2019)が呉市冠崎地区の水害碑の建立経緯を報告しているのみである。災害に関する石碑の多くは建立後の期間が長く,建立の経緯を詳細に知ることは困難である。西日本豪雨の水害碑は当事者へ聞き取り調査を行うことが可能であり,被害の様子や建立の経緯を正確に記録することができる。本発表では,広島県を対象として,西日本豪雨に関連して建立された水害碑の分布と建立の経緯を報告し,その特徴について述べる。</p><p> 調査は,報道やSNSの画像を利用して水害碑の位置を特定した。現地では,水害碑の撮影や大きさ,碑文の記録を行い,水害碑を建立した当事者に聞き取りを行った。</p><p>2.水害碑の特徴 広島県内では西日本豪雨に関連する7基の水害碑が確認された。水害碑は呉市に3基,広島市安芸区に2基,東広島市に1基,坂町に1基がそれぞれ分布し,西日本豪雨に伴う土石流が高密度に分布する範囲に含まれる(Goto et al., 2019)。7基の水害碑を災害の種類ごとに分類すると,土石流による水害碑が5基,崖崩れと洪水による水害碑がそれぞれ1基であった。土石流による水害碑はいずれも土石流が流下してきた末端に近い場所に建立されている。水害碑のうち,死者について碑文に記されているものは4基で,最大で12名の死者が生じた。設置主体は,不明である2基を除くとすべて民間団体であった。碑文の内容を熊原ほか(2017)に基づき3つに分類すると,「被災」が6基,「慰霊」が1基で,「復旧」に該当するものは存在しない。水害碑の材料には自然石や加工された石材が使用されているが,自然石や石材と金属プレートを併用しているものが2基見られた。</p><p>3.碑建立の経緯の例 坂町横浜地区では,西日本豪雨に伴い崖崩れが発生し,2棟の家屋が流失した。この際,墓地に土砂が流入し,墓石や遺骨が散乱したため,遺骨の持ち主が分からなくなった。改葬公告を行ったが,申し出がなかったため,遺骨の改葬を行うとともに,被害の事実を示すために水害碑が建立された。ただし,崖崩れの発生や家屋の流失を水害碑の碑文から読み取ることはできない。</p><p> 呉市冠崎地区では土石流が発生し,説教所をはじめ10棟が流失し,1名が死亡した。犠牲者の慰霊と災害の伝承,説教所に代わる住民の心の拠り所になることを願って水害碑が建立された(岩佐・熊原,2019)。</p><p>4.碑の活用への課題 水害碑のうち4基は災害の様子を碑文から読み取ることができないこと,わかりにくい場所に設置されていることから,防災教育での活用には工夫が必要である。また,水害碑が立地する隣の谷でも大規模な土石流が発生している場合があり,水害碑が地域全体の災害履歴を代表するわけではないことに留意する必要がある。</p><p>文献:Goto et al. (2019) Journal of Disaster Research, 14, 894-902; 田村・田中(2020)日本建築学会技術報告集,26,325-330; 広島県危機管理課(2020)平成30年7月豪雨災害による人的被害について; 北原ほか(2012)災害復興研究,4,25-42; 小山ほか(2017)地理科学,72(1)1-18; 青山(2020)地球惑星科学連合2020年大会発表要旨; 岩佐・熊原(2019)地理,64(11)48-55; 熊原ほか(2017)広島大学総合博物館研究報告,9,81-94; 広島大学平成30年7月豪雨災害調査団(地理学グループ)(2018)平成30年7月豪雨による広島県の斜面崩壊分布図,2018年8月2日</p><p>付記:JSPS特別研究員奨励費(JP20J22288)の助成を受けた。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390287525778210816
  • NII論文ID
    130008006700
  • DOI
    10.14866/ajg.2021s.0_99
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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