国際的な視野からみた地理学と地理教員養成の関係

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タイトル別名
  • Geography as science and geography teacher education in global context: competence or capability?
  • ケイパビリティーとコンピテンシーの対比

抄録

<p>1.はじめに</p><p></p><p>シンポジウム「地理・社会科授業実践に必要な教師の力量とその要請—グローバルな教員養成論から考える—」では,ジオ・ケイパビリティが議論の土台のひとつとされている。ジオ・ケイパビリティは英国で提唱され,その後,アメリカや北欧を中心とする国際共同プロジェクトとして展開してきた。筆者が研究を進めてきたドイツも同プロジェクトに参加している。また,同プロジェクトにおいては,ドイツの伝統的なDidactics(教授学)の考え方に関心が寄せられるといった現象もみられる。</p><p></p><p>こうした国際的なコミュニケーションの一方で,ドイツ国内における同プロジェクトの受容は順調とは言い難い。2015年,ベルリン・フンボルト大学で開催されたドイツ地理学会の基調講演は,ランバートによるジオ・ケイパビリティ論であり,また,関連するセッションも開かれた。これらを通じてドイツ地理関係者に広く認知されたジオ・ケイパビリティであったが,ドイツ国内における能力論の議論は,1990年代から議論されてきたコンピテンシー論が隆盛を極めていた。能力論としてコンピテンシーと重複する位置関係にあったため,結果的にジオ・ケイパビリティの議論は進展しなかった。</p><p></p><p>しかし、どちらも国際的な展開をみせている点や、地理教育の立場から親学問である地理学を重視する姿勢といった共通点がある。そこで本発表では,イギリス発のジオ・ケイパビリティとドイツ国内のコンピテンシーの2つの能力論について対比を行い,それぞれの抱える地理学,地理教員養成との関係性−距離感−を整理することを試みる。なお,本発表でのコンピテンシーはジェネラルなコンピテンシーではなく、教科コンピテンシーである地理システムコンピテンシー(以下、地理コンピテンシーと表記)をとりあげる。</p><p></p><p> </p><p></p><p>2.ケイパビリティとコンピテンシーの対比</p><p></p><p>(1)能力論としての対比</p><p></p><p> ケイパビリティは潜在能力とも訳されるように,生徒の潜在的な力の向上として、現在や将来における自由・権力や選択の可能性に目を向ける。一方,コンピテンシーは予め規定された顕在化されうる能力に目を向ける。その際,重要視されるのは生徒の現在の実行可能な能力(can-do)であり、それは測定可能な能力でなければならない。両能力論において能力のリスト化ができるか否かはこの測定可能性に因んでおり、この点に両者の大きな差異が認められる。</p><p></p><p>(2)地理学との関係・距離</p><p></p><p>両者ともに地理学の学問性を尊重する。ジオ・ケイパビリティは教育的視座から地理学の知識を重視するが、その際、知識論に基づいて接近する(つまり距離があることが前提となっている)。一方,コンピテンシーは,そもそも地理学の学問的な概念の分析を出発点とし、その学術的概念を地理教育上の見方・考え方や能力として再構成するという視座から能力論の開発が行われる。Didactics(教授学)の概念が地理学と地理教育とを仲介し、そしてその2点間のシームレス化を目指す運動がみられる。</p><p></p><p>(3)地理教員養成との関わり</p><p></p><p>両者ともに,授業実践を担う地理教員の教科教育専門職としての力量向上のために存在している。ジオ・ケイパビリティは,イギリスの過度に構成主義的で指導方法論に偏った学校授業および教員養成への批判として提起された。そして、ヴィネットやカリキュラム・メイキングという形式で教員養成に落とし込まれる。一方,ドイツでは,これは地理コンピテンシーに限らずコンピテンシー一般においてだが,生徒の自律的な力を養うことを目的として,構成主義的かつ指導方法論を重視した手法が積極的に推進されている。そこでは、学習課題と試験/評価という形式が授業あるいは教員養成に落とし込まれる。</p><p></p><p>両者は授業実践の外形上,逆の志向性を有している。その背景には両国の教育事情の違いが大きいが、ここでは教員養成における学問的な地理学の位置づけの違い、教員養成の違い、教科特性の自明性の違いに焦点をあてる。</p><p></p><p> </p><p></p><p>3.日本への示唆</p><p></p><p>ジオ・ケイパビリティは目下、「力強い授業づくり」の段階に入っている。具体的な教材を求める声が多い日本では、ヴィネットと並んでパワフル・ペタゴジーが示されれば、現場での受容が進む可能性がある。一方で、地理コンピテンシーの議論を踏まえると、地理学と地理教育のシームレスな関係性こそが鍵となる。地理学(者)は地理教育のために情報や知識を提供するのではなく、地理学的な概念をひも解き,地理的な見方・考え方へと接続する役目がある。教員養成はそのための場になる。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390287525778679680
  • NII論文ID
    130008006636
  • DOI
    10.14866/ajg.2021s.0_25
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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