脳卒中患者の生活期における装具支援

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抄録

<p> 装具はその用途の違いから治療用装具と更生用装具に大別される。治療用装具は治療そのものを目的として医師の処方のもと一時的に使われるものを,更生用装具は,治療が終了した後,失われた身体機能を補完または代替えし,職業または日常生活の維持向上を目的として作製される補装具のことを指す。医療機関等に勤務されている方々は補装具に馴染みがないかもしれない。</p><p> 補装具の購入(修理)を希望する場合,市町村に補装具費支給の申請を行うことになる。市町村は補装具の支給を決定するに際し,身体障害者更生相談所に対し,補装具費支給の要否にかかわる判定(要否判定)を依頼することになっている。そのため支給決定には時間を要することが多い。ある自治体では,再作製の申請から支給まで3か月かかったケースもあった。万が一,修理が困難となるような破損が生じた場合,長期間装具が使用できなくなるといった事態に陥る可能性もある。そのため,破損の前兆を察知し,早めの対策を講じる必要がある。</p><p> 要否判定の方法には,更生相談所に来所して行われる方法(直接判定)と,更生相談所外の専門医に判定を委嘱する方法(文書判定)の二つがある。直接判定は,直接来所した申請者と初めて面接し,その場で必要な下肢装具の判定を行わなければいけないため非常に困難を伴う。装具をどのような場面で使用するのか,自宅環境は,周辺環境はどのようなものなのか,長時間装用することで何か問題の発生がないか,これらの情報は初見の場では知り得ることができない。そのため,生活期に関わる理学療法士は,使用状況に関する情報や試用した装具による歩容,現存する身体機能とそれらを生かす下肢装具の種類などの情報提供を,推測や印象に頼ることなく,根拠を持って示す必要がある。これら直接判定の参考となる情報は情報提供書によって行われる。対象者の利益のため,作成することを心がけたい。</p><p> 補装具は経年劣化や使用状況によって使用が困難となることがある。使用者である生活期の片麻痺者も長年の経過の中で身体機能の低下をきたしやすい。関節可動域制限や動作時筋緊張の亢進に伴う内反尖足によって,より強固で機能を抑えた装具を作製することもあるかと思う。しかし足関節の固定は歩行への弊害も大きいことを忘れてはいけない。たとえば,足関節底屈の制限は立脚終期におけるPush offを,足関節背屈の制限は立脚中後期にかけて股関節伸展を困難とし,歩行速度に影響を及ぼす。また,遊脚初期の膝関節屈曲が不足することで分廻し様の振り出しとなる可能性がある。このように,関節の矯正や固定を目的とした装具の変更が,歩行能力の低下と努力性の運動を助長することによって生じる身体機能の低下を惹起させる可能性がある。理学療法士の役割は,装具の不具合を見つけ出す活動やシステムの構築だけに留まらず,対象者の歩行を診ることにある。装具の管理,歩行トレーニング両面からの支援が生活期の片麻痺者には必要なことと思う。</p><p> 今回は,行政との連携や歩行トレーニングの実際を事例紹介しつつ講演させていただく。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390287540628362496
  • NII論文ID
    130008011103
  • DOI
    10.14900/cjpt.47s1.d-1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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