古くて新しいストレッチ:基礎研究最前線

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抄録

<p> ストレッチは単に筋柔軟性を増加する理学療法手技としてだけでなく,骨格筋および骨格筋微小血管を構成する細胞に対する物理的刺激として捉えるべきである。私たちの生体は,物理刺激に対して適応する性質を備えており,その典型例は血圧と血流による物理刺激に常時曝されている動脈および細動脈である。私は急性心筋梗塞を発症後平均6日後の入院患者(32名,平均66±9歳)を対象に,上下肢・体幹に対する1セッションのストレッチ効果を報告した。ストレッチ後の上肢の反応性充血がストレッチ前と比べて増加することを報告した(Hotta, et al. Int Heart J 2013)。ストレッチによる反応性充血増大のメカニズムおよび長期効果について検討するために,高齢ラット(月齢20ヵ月,雄性)の片側後肢の足底屈筋群を装具により伸長するストレッチモデルを作成した。4週間のラット後肢に対するストレッチ(30分/日,5日/週)の後,実体顕微鏡を用いてヒラメ筋細動脈(血管径82±6μm)を摘出し,アセチルコリン投与に対する内皮依存性血管拡張反応を計測した。その結果,ストレッチされたヒラメ筋細動脈の内皮依存性血管拡張反応は,非ストレッチ肢あるいは偽治療群のラットヒラメ筋細動脈と比べて有意に高値を示した(Hotta, et al. J Physiol 2018)。さらに,ストレッチ刺激を受けた骨格筋細動脈の内皮細胞において血管拡張物質の産生に関与する内皮型一酸化窒素合成酵素の発現を認めた。</p><p> ラットで認めた効果がヒトでも観察されるか検討するために,米国の循環器内科クリニックに通院中の末梢動脈疾患と間歇性跛行を有する高齢外来患者(13名,71±2歳,ABI 0.73±0.07)を対象に,在宅において装具を用いて下腿三頭筋に対するストレッチ(30分/日,5日/週,4週間)を実施した。ストレッチの前後に超音波画像診断装置を用いて膝窩動脈の血流依存性血管拡張(FMD)を測定した。ストレッチ後の膝窩動脈のFMDおよび6分間歩行距離は,ストレッチ前と比較して高値を示した(Hotta, et al. Cardiovasc Revasc Med 2019)。以上のことから,ストレッチは血管機能の改善を介して末梢動脈疾患患者の歩行機能を改善すると思われた。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 47S1 (0), G-13-G-13, 2020

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390287540631941888
  • NII論文ID
    130008011521
  • DOI
    10.14900/cjpt.47s1.g-13
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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