ジャミング転移の次元依存性

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タイトル別名
  • Jamming Below Upper Critical Dimension
  • ジャミング テンイ ノ ジゲン イソンセイ

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抄録

<p>粉体のように,大きさ0.1 mm程度以上のマクロな粒子からなる系では,熱ゆらぎの影響は無視できる.これらの非熱的な系を圧縮して密度を上げていくと,ある密度で,粒子が互いに接触し始め,系が固体のように振る舞い始める.これが,ジャミング転移とよばれる現象である.通常の固液相転移とは異なり,ジャミング転移では,転移点よりも高密度でも,粒子配置は乱れたままである.ジャミング転移の問題は,粉体工学等の応用上重要であるだけでなく,非熱的な系における相転移の代表例として,基礎物理の観点からも興味深い課題である.</p><p>特に臨界現象の研究では,二次相転移におけるイジング模型のように,複雑な現実の系を考える代わりに,しばしば現象の本質を捉えたミニマル模型を考える.ジャミング転移で,これに対応するのは,摩擦が無い球形粒子である.摩擦が無い球形粒子については,系統的な数値シミュレーションが行われており,有限サイズ効果も考慮した系統的な解析が行われている.その結果,転移点近傍では,エネルギーや,圧力,粒子間の接触数等様々な物理量が,ベキ的な振る舞いを示すことが明らかになった.また,局所的な摂動に対する系の応答から定義される相関長も,転移点に向けて発散的な傾向を示す.これらの結果は,ジャミング転移が,二次相転移のような臨界現象であることを強く示唆している.さらに,興味深いことに,ジャミング転移の臨界指数の値は,2次元と3次元で同じ値を取ることが数値シミュレーションによって報告されている.</p><p>臨界指数の値が次元に依存しないということは,平均場極限である,空間次元が大きな極限を考えることで,臨界指数を解析的に計算できるということを示唆している.実際に,最近,古典液体論における密度汎関数法と,スピングラスのようなランダムネスがある系を扱う手法であるレプリカ法を合体させた「レプリカ液体論」を,球形粒子からなる系に適用することで,空間次元無限大極限でのジャミング転移の臨界指数が厳密に計算された.その結果は数値誤差の範囲で,実験や,数値シミュレーションによる結果と一致することがわかった.</p><p>2次元以上の次元で,平均場理論がうまくいくということは,ジャミング転移の上部臨界次元が,2次元以下であるということを意味している.ここで出てくる自然な疑問は,「上部臨界次元未満の次元で何がおこるか?」というものである.我々は,この疑問に答えるため,有限の幅の壁の間に閉じ込められた2次元粒子からなる擬1次元系を考え,数値シミュレーションを行った.その結果,擬1次元系のジャミング転移では,2次元以上の場合とは異なる臨界指数が表れ,転移点での2点相関関数の振る舞いも定性的に異なることが明らかになった.</p><p>我々の結果は,ジャミング転移の上部臨界次元が1次元と2次元の間にあることを示唆している.今後は,擬1次元系と2次元系の違いを詳しく考察することで,ジャミング転移の上部臨界次元を決める物理的な機構について明らかにしていきたい.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 76 (4), 208-213, 2021-04-05

    一般社団法人 日本物理学会

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