知覚神経の活性化は癌細胞の骨での増大と転移を促進する

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  • 奥井 達雄
    島根大学学術研究院医学・看護学系/島根大学大学院医学研究科医学部歯科口腔外科学講座

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抄録

乳癌,前立腺癌などのある種の悪性腫瘍は高頻度に骨に転移する。骨転移はそれ自体が,癌患者の生存に影響することは稀であるが,骨から内臓臓器への二次転移により癌患者の死亡率を高める。また骨転移は骨痛や病的骨折などを引き起こし,癌患者のQOLを低下させる。したがって癌骨転移,骨破壊の制御は癌患者の管理において重要な項目である。<br>骨転移の詳細なメカニズムはいまだ不明であるが,癌は骨微小環境の構成細胞である破骨細胞,骨芽細胞,骨細胞と互助的に悪循環を成立させ,骨恒常性を破綻しながら骨転移を進行させることが示されている。骨転移が進行すると,その刺激により骨内の知覚神経が興奮し,癌性骨痛が誘発される。近年,知覚神経は血管新生と同様に癌の増大を制御することが明らかとなりつつある。骨には密に知覚神経が分布するが骨転移の増大,あるいは骨からの二次転移に対して知覚神経がどのような影響を及ぼすかについてはいまだ検討されていない。われわれは知覚神経興奮による骨痛誘発と癌細胞の増殖,転移との関連について検討した。<br>本研究を進めるためにマウス乳癌細胞株4T1の脛骨内注入モデルを樹立した。4T1は骨内で溶骨性に増大し,骨内での知覚神経の増生および骨痛を誘発し,同時に骨から肺への転移を示した。増生した知覚神経では種々の増殖因子発現が増加しており,4T1の骨内での増大,肺転移を促進することが明らかになった。また報告者らは,知覚神経の興奮が増殖因子産生を促進することを明らかにし,神経興奮つまり骨痛が4T1の骨内での増大と肺転移を促進することを明らかにした。本講演においてはこれらの研究結果について報告し,知覚神経が骨転移および骨からの二次転移の治療をめざす場合の新規の治療標的となり得ることを提唱する。<br>■略歴<br>2006年3月 岡山大学歯学部卒業<br>2006年4月 岡山大学医学部・歯学部附属病院 医員(研修医)<br>2011年3月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 修了(歯学博士)<br>2011年4月 岡山大学病院 医員 口腔外科(病態系)<br>2014年4月 米国インディアナ大学血液腫瘍内科 博士研究員<br>2016年4月 岡山大学病院 助教 口腔外科(病態系)<br>2020年12月 島根大学医学部歯科口腔外科 准教授 現在に至る

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