タイ南西部パカラン岬周辺の津波石の起源に関する考察

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タイトル別名
  • Examination for origin of tsunami boulders based on historical development of landforms around Pakarang Cape, southwestern Thailand
  • 地形発達史の視点から

抄録

<p>はじめに</p><p></p><p>タイ南西部のパカラン岬周辺では,2004年インド洋大津波時に打ち上げられた津波石が多数分布しており,これらを用いた津波の挙動に関する数値計算も行われている(たとえばGoto et al., 2007).発表者らは,これまで小型UAVを用いた大縮尺の航空写真撮影,これらを用いたSfMによる測量により,津波石,その起源となっているマイクロアトールの空間分布の把握を行ってきた(壇ほか,2020).本発表では,これらの空間分布や,津波石やマイクロアトールのAMS14C年代測定結果をもとに,地形発達史および津波石の起源について考察した結果を報告する.</p><p></p><p>調査地域概観</p><p></p><p>パカラン岬は,タイ南西部,アンダマン海沿いのプーケット島から100kmほど北に位置している.インド洋大津波後には岬周辺の海岸線から北東に向かってサンゴ礫や砂による新たな砂州・砂嘴が形成されている.パカラン岬の西側には海岸線から500〜800mの幅の礁原状の地形が広がっており,低潮位時にはマイクロアトールや津波石が露出する.調査地域のマイクロアトールは,礁原の西部が主な分布域となっているが,岬周辺に分布する砂嘴や砂州の堆積物中に埋没しているものも存在する.</p><p></p><p>結果および考察</p><p></p><p>調査地域では,礁原縁辺部において比較的大きいマイクロアトールが分布する傾向を示し,最大径4.5m程度に達するものも存在する.その頂部の発達高度は海抜-0.4m〜-0.9m (MSL)となっており,平均は-0.7m程度となっている.また,これらのマイクロアトールよりも明らかに低位(海抜-1.5m〜−1.0m)に発達する,径の小さいタイプのものも存在していることから,調査地域のマイクロアトールはいくつかのタイプに分類することができるであろう.</p><p></p><p>これらの高位のマイクロアトールからは,約4600 calBP,約4800calBPの年代が得られている.Neuhuer et al. (2011) は,パカラン岬周辺の津波石やサンゴ礫の年代測定結果から,約5200年前と約4700年前にサンゴ礁を破壊するようなイベントがあったことを推定,調査地域の津波石はこのイベント時にもたらされたものとみなしている.</p><p></p><p>現生のマイクロアトールは,波浪の小さな環境で生育するハマサンゴのような造礁サンゴにより形成されており,マイクロアトールの分布は,礁嶺の内陸側に位置する礁池に分布することが多いようである.しかし,本調査地域では,礁原の西部には礁嶺のような高まりは存在せず,外洋の波浪が直接(化石化した)マイクロアトールに到達し,激しく侵食されるような地形環境となっている.2020年1月の調査時に,礁原の西縁付近においてマイクロアトール,およびそれが破壊されて上下が逆転した状態で乗り上げている移動距離が短い津波石が見いだされた.その津波石の外縁の年代測定を実施したところ,約3800 calBPのAMS14C年代が得られ,調査地域では,この時期にマイクロアトールの生育に適した波浪の弱まる環境が存在,おそらく礁嶺のような高まりが外洋側に発達していたこと,これがインド洋大津波で津波石となったことが推定される.</p><p></p><p>以上のことから,調査地域における津波石は,Neuhuer et al. (2011)が指摘したような過去のイベントにより破壊され運搬されたものと考えるより,過去の相対的海水準の高い時期に形成されたマイクロアトールが,礁嶺のような高まりが侵食されることにより,外洋側にさらされる状態になった際に,インド洋大津波が発生,多量の化石化したマイクロアトールが津波石として生産・運搬されたと推定することができる.</p><p></p><p>本研究の実施には,科学研究費補助金(基盤(A):代表 今村文彦「巨大津波後の長期的地形変化を考慮した沿岸防災機能強化」を使用した.</p><p></p><p>参考文献 </p><p></p><p>Goto et al(2007)Sedimentary Geology,202,821-837.</p><p></p><p>Neuhuer et al. (2011) Coastline Reports, 17,81-98.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390289532559458048
  • NII論文ID
    130008092964
  • DOI
    10.14866/ajg.2021a.0_100
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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