DSMによる第2次大戦以降の都市の3次元的時空間分析の試み
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- 桐村 喬
- 皇學館大
書誌事項
- タイトル別名
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- 3D Spatiotemporal Analysis of Urban Areas Using DSM Data After the WWII
説明
<p>I 背景と目的</p><p> 2021年3月に国土交通省が公開した「PLATEAU」からは,3次元都市モデルがダウンロードできる.PLATEAUのデータを活用すれば,都市における3次元的な景観の可視化や,3次元的な都市景観を生かしたデータ表現などが容易に実現できるようになっている.一方で,過去のデータは今のところ作成・公開されておらず,3次元的な都市空間における時系列分析は難しい.</p><p> ところで,現代の3次元都市モデルは,主に航空レーザー測量や空中写真測量によって作成されている.また,ドローンが撮影した写真データから3次元の点群データを生成し,3次元モデルを作成するStructure from Motion(SfM)と呼ばれる技術も安価に利用できるようになってきた.国土地理院が公開している空中写真データを利用すれば,SfMソフトウェアによってDSM(数値表層モデル)を生成し,3次元都市モデルを作成できる.また,米軍撮影の空中写真なども利用でき,第2次大戦後の長期間にわたる3次元都市モデルを構築することも不可能な状況ではない.</p><p> そこで本研究では,主に国土地理院が撮影した空中写真を利用して,SfMソフトウェアを用いて作成したDSMおよびオルソ写真を利用した,都市の3次元的な時空間分析の展開可能性について検討する.DSMによる空間分析は,リモートセンシングやドローンによる地形解析などで盛んに行われているが(早川・小口2016),日本の都市部における長期の時系列分析では十分には活用されていない.土地利用の状況だけでなく,高さの情報も得られることで,小地域統計が十分には得られない,1970年代までの都市の状況を詳細に分析できる.また,高さという視覚的な要素は,地域の長期的変化を読み解くうえでの重要なヒントにもなりうる.さらに,研究者自身の目的だけでなく,過去の風景写真や語りなどを収集するための資料としても活用でき,地域における地理・歴史教育のデジタルコンテンツとしても利用できるものと考えられる.</p><p></p><p>II 対象地域・資料</p><p> 戦後の都市の3次元的な時空間分析を行うためには,都市における戦後のさまざまな変化の状況を,DSMによって十分に観察できる必要がある.そこで,農業利用を含めて1950年代にはほとんどの地域で開発が進んでおり,現在は超高層建築物もみられる東京23区の西部と,1950年代にはまだ森林が残るが,大都市近郊にあってそれ以降に大規模開発が進んだ大阪府吹田市,大都市圏から離れた地方都市であり,開発のスピードが緩やかな三重県伊勢市を分析の対象とする.DSMの作成に利用したソフトウェアはAgisoft社のMetashapeである.</p><p> 利用する空中写真の撮影年は,東京23区西部は1947/1948,1963,1975,1984,1992,2001,2009年,吹田市は1961,1975,1985,1989,2007年,伊勢市は1952/1953,1961/1963,1968,1975,1983,2002,2008,2020年である.</p><p></p><p>III 分析結果とまとめ</p><p> 図1は吹田市のDSMの差分を求めたものであり,+は高さの増加,−は減少を示す.千里丘陵が開発され,谷が埋められている状況や,高速道路の建設なども読み取れる.また,市街地の水平的な拡大状況だけでなく,市南西部を中心とする垂直的な,高さ方向の都市の発展状況も読み取ることができる.また,町丁単位でDSMの高さのパーセンタイル5%と95%の値の差を求め,その時系列変化を分析したところ,垂直方向の変化量の大きい東京23区西部では,高層化の状況を明確に読み取ることができた.町丁やメッシュ単位で,高さやその変化に関する統計情報を求めることで,景観の変化と人口動向,土地利用変化などの関係を分析でき,戦後,特に高度成長期以降の都市空間の急速な「立体化」(戸所1986)の状況を定量的に明らかにすることもできる.</p><p> 一方,3地域かつ長期間におけるDSMの作成の結果とその分析からは,次のような点が明らかになった.まず,国土地理院のウェブサイトからダウンロードできる400dpiの空中写真でも,撮影縮尺が20000分の1以上の詳細さがあれば十分に分析可能である.また,1970年代以降の空中写真は,SfMソフトウェア上での写真のマッチングの精度も高く,特にデジタルカメラで撮影された2000年代以降のものは十分な結果が得られる.一方,米軍撮影の空中写真はマッチングが十分ではなく,まだら模様のDSMが生成されることも多い.米軍による空中写真は1940・1950年代の状況を把握できる貴重な資料であり,コントロールポイントを大量に配置するなどの対応が必要となる.</p>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2021a (0), 63-, 2021
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390289532560294272
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- NII論文ID
- 130008092959
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可