新技術がもたらした腰痛評価の変遷から見る運動器評価の多様性とオープンイノベーション

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  • 折田 純久
    千葉大学フロンティア医工学センター 千葉大学大学院医学研究院整形外科学

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抄録

<p>腰痛は多因子に由来することから,医師の診察に基づく従来の病態把握およびその治療効果の評価判定が実状を正確に反映しているかは定かではない.</p><p>腰痛患者の病態評価については日本整形外科学会(JOA)スコアに代表される医師主体の評価指標から患者立脚型のJOABPEQスコア等に移行することで患者の状態をより客観的に把握できるようになった.しかしながら依然としてアンケート形式のスコアリングにすぎず患者の日常生活量を正確に評価することは困難である.この問題に対して我々は近年急速に普及する,日常活動を客観的に計測・蓄積できる腕時計型のウェアラブル端末装置を用いて腰痛患者の日常および手術前後における活動量を体幹および四肢の筋量との相関も含めて客観的に評価した.その結果の一例を挙げると,腰痛患者の活動量はJOABPEQの腰椎機能, 社会生活の各ドメインと相関し腰痛VASと負の相関をみとめ,さらに急性腰痛患者では睡眠時間が有意に短くなっていることが判明した.また,腰椎手術による活動度変化について本法にて評価したところ,平均の活動量は術前と比較し術後1か月で低下,術後6か月以降に術前より有意に改善を認め,さらに各期間毎の活動量変化に強い相関をみとめた.一方で患者立脚型アウトカムは全ての項目において術後1か月で改善を認めたことから,腰椎疾患患者の活動量は従来想定されていた概念と比較し改善に長期間を要することが新たに示唆され従来の認識との乖離が示唆された.</p><p>このように,患者立脚型の評価スコアであってもそのADL評価を客観的に行うことは困難であることがうかがい知れることから,今後の疼痛研究はより客観性を獲得し,多方面から広く収集した集積型データの解析が重要となってくるものと思われる.我々はWebベースのクラウド型データベースを用いた多施設脊椎手術症例レジストリシステムを関連施設間で構築しており,今後はウエアラブル端末によるレジストリデータ解析を導入することでさらなる客観的かつ実践的な活動量評価に関するエビデンスの構築が期待される.</p><p>また,慢性腰痛に対する新たな治療の試みとして昨今ではフィットネスゲームによるExergamingも腰痛予防・治療の手段として報告されるなど日々新しいアイデアが創出されており,本シンポジウムでは我々の腰痛研究を紹介しながら,運動器科学の多様性とそのアプローチについて検討する.</p>

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