歩行学習とリハビリテーションロボットの展望

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抄録

<p> 片麻痺歩行に対する運動療法では,歩行運動に関するバイオメカニクスを理解し,そのリズム運動に必要な感覚情報を処理させながら,獲得させたい運動スキルに焦点を当てた環境を形成して,その課題を反復させる必要がある。歩行学習課題を通じて提供するべき荷重感覚は,通常は潜在的に処理されるが,麻痺患者に対しては,これを視覚情報等によって顕在化することを考慮する必要がある。本学では,国際電気通信基礎技術研究所(ATR),慶應義塾大学と連携し,空気圧人工筋肉によって下肢装具の足関節継手を制御する歩行支援ロボットを用いて,片麻痺歩行再建を誘導するアルゴリズム開発を,AMED先進医療機器・システム技術開発事業の助成(課題番号JP20he2202005)を受けて実施している。歩行運動において‘end effector’となる足関節運動を徒手的に管理することは難しく,ゆえに足関節ロボットを用いて,重要な荷重受容器である足関節底屈筋の伸長を介したリズム形成の場を提供することで,片麻痺歩行がどのように変化するかについて検証を進めている。</p><p> 足関節ロボットによる歩行学習の臨床経験から,立脚後期に下腿が前傾するような足関節制御に基づいて母趾球部の足底圧値を高めるように歩行学習を実施すると,対照群に比べてロボット治療群では,麻痺肢立脚後期の‘trailing limb angle’が増大したのちに,麻痺肢推進力の改善が得られる。立脚後期に麻痺肢を身体の重心よりも後方に保持する肢位の獲得は,足関節背屈・膝関節屈曲によって実現される。ロボット治療の結果,この肢位が形成されることで,歩行速度が改善する症例が見られる。しかしながら,健常者では,立脚後期に足関節を底屈位に保持して,膝関節伸筋群の遠心性収縮によって,‘passenger unit’を前方へ運ぶ動歩行が,歩行推進力として機能している。片麻痺歩行において,この歩行推進機構を習得させることは非常に難しいが,足関節ロボットによる歩行学習の結果,麻痺肢の前遊脚期において,踵を床面から持ち上げられるまで改善する症例もあり,立脚後期の足関節底屈・膝関節伸展によって歩行速度の改善が得られる場合もある。</p><p> ロボットによるアシストをどのように調整していくかは,リハビリテーションロボットによる歩行学習を展開する上で重要な課題である。足関節ロボットでは,麻痺肢による歩行推進力の回復を目標とすることから,足圧中心(center of pressure:以下,COP)が足底部の踵から足趾まで移動する距離および時間を各領域別に計測することで,アシストに対する応答性の判断基準となり得るかについて検討している。症例によってアシストへの応答性はまちまちであるが,これらのCOP指標は床反力前後成分における推進力の積分値ならびにピーク値と相関することから,ロボットによる自動制御を実現するためのパラメータの候補となると考えられる。</p><p> 立脚後期において足関節を底屈位に保持しながら,膝関節伸筋群の遠心性収縮をリズム運動の中で学習する方略として,NICT脳機能補完による高齢者・障がい者の機能回復支援技術の研究開発事業の助成(管理番号1870102)を受け,足底前方に荷重することで足台が上昇するステッパーロボットをATRと共同開発した。片麻痺歩行を再建していく過程においては,社会復帰に向けて,移動手段としての安定性・効率性が得られやすい歩行様式へ収束していくことはやむを得ない。だからこそ生活期において,歩行リズムの形成に必要な運動スキルを,廃用の要素に対する治療も含めたアプローチを可能とする治療システムの構築が必要である。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 48S1 (0), C-43-C-43, 2021

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390290493076726528
  • NII論文ID
    130008133495
  • DOI
    10.14900/cjpt.48s1.c-43
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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