キバチ類3種の資源利用様式と繁殖戦略

書誌事項

タイトル別名
  • Resource utilization and reproductive strategy of three woodwasp species (Hymenoptera : Siricidae)
  • キバチルイ 3シュ ノ シゲン リヨウ ヨウシキ ト ハンショク センリャク

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説明

キバチ類(Siricidae)は、各種針葉樹・広葉樹に穿孔する食材性のハチの一群である。キバチ類の多くは、体内に貯蔵している担子菌額のAmylostereum菌を産卵時に材内に接種し、キバチ幼虫はこの菌を利用しながら辺材部を摂食して生育する。近年、スギ・ヒノキの木口面に認められる”星形”の変色が、キバチの接種する菌の作用であることが明らかとなり、害虫としてのキバチの存在も注目されつつある。本研究では、キバチ類の生態的特性の中で、 とくに彼らの資源利用様式と繁殖戦略を、天敵生物との関わりも含めて比較生態学的な観点から明らかにした。すなわち、アカマツ、スギ、 ヒノキ、モミに寄生する3種のキバチ、ニトベキバチ(Sirex nitobei)、ニホンキバチ(Urocerusjaponicus)、オナガキバチ(Xeris spectrum)について、6年間にわたってそれらの生活史や産卵機構などの生態特性、菌類との共生関係、 さらにはそれらをとり)まく生物間相互関係を中心に調査・実験を行い、以下のような新しい知見を得た。\n(1)キバチ類3種の生態特性1. 4樹種の寄主木から、ニトベキバチ、ニホンキバチ、オナガキバチの3属3種のキバチが羽化脱出した。ニトベキバチは1年1化であり、寄主木のアカマツ、モミから9月上旬~10月中旬に多く羽化脱出した。またニホンキバチも1年1化で、スギ、ヒノキから7月上旬~9月中旬の長期間にわたって多く発生した。一方オナガキバチは、スギ、モミから羽化脱出したが、8月中~下旬に脱出ピークをもつ1年1化のものと5月上旬~6月中旬をピークとする2年1化のものとが存在した。2.キバチ成虫の生重は、ニトベキバチでは20~490(♀)、ll~226(♂)mg、ニホンキバチでは42~299(♀)、17~84(♂)mg、オナガキバチでは12~181(♀)、3~62(♂)mgであり、3種ともに著しい個体差があった。また、キバチ成虫の平均蔵卵数(次世代生産能力)は、ニホンキバチで370個と最も多く、オナガキバチは150個、ニトベキバチは130個と最も少なかった。一方、卵長で評価した卵サイズは、ニトベキバチが1.6mm と最も大きく、オナガキバチは1.4mm、ニホンキバチは1.1mm と最も小さかった。さらに成虫の平均生存日数は、3種いずれも3.5~5.5日であった。(2) キバチ類3種の次世代生産能力および寄主木の条件が産卵行動に及ぼす影響1.キバチ類3種の体サイズと蔵卵数との間には、それぞれ明瞭な正比例関係が認められ、この関係からキバチの産卵数および産卵率の推定が可能となった。この方法を用いて、伐倒後1週間以内の主要寄主木丸太への3種の産卵特性を比較した。その結果、ニトベキバチのアカマツ丸太への推定産卵率は平均54%で、キバチ個体間の変動が大きかった(0~l00%)。ニホンキバチのスギ丸太への産卵率は50~100%の範囲にあったが、産卵率70%以上の個体が全体の60%以上を占め、平均産卵率は79%ときわめて高かった。一方、オナガキバチのスギ丸太への産卵率では、10%以下の個体の割合が全体の70%以上に達し、平均産卵率も3%にすぎなかった。2.ニトベキバチについて、主要寄主木の伐倒後経過日数と産卵率との関係をみたところ、伐倒後3日以内の「新鮮丸太」では産卵率は供試丸太ごとに大きく異なり、約半数の個体は産卵率50%以下であった(平均39%)。しかし、伐倒後4~24日の「中間丸太」では、すべての個体が50%以上の産卵率を示し、平均産卵率も88%に達した。一方、伐倒後25日以上経過した「古丸太」における産卵率は、大部分の個体で50%以下であった(平均26%)。また、アカマツの生立木、枯死木に産卵させたニトベキバチの平均産卵率はそれぞれ45、58%であり、中間丸太における産卵率よりも低かった。3.ニホンキバチは、伐倒後10日以内のスギ丸太には高い産卵率(平均80%)を示したが、伐倒後経過日数が増すにつれて産卵率は低下し、伐倒後50日以降の丸太ではすべての個体が産卵率50%以下であった。また、産卵時のスギ丸太の含水率とニホンキバチの産卵率との間には明瞭な関係は認められなかった。4.オナガキバチでは、伐倒後1年を経過した古丸太には、伐倒後1週間以内の丸太と同様の低い産卵率にとどまり(平均4%)、多くの個体は産卵行動すら示さなかった。これに対し、Amylostereum chailletiiまたはA.areolatum を接種した丸太に対しては、それぞれ平均30%程度の産卵率を示し、90%以上の高い産卵率を示す個体もみられた。さらに、丸太上の菌の接種部付近に集中して産卵する傾向も認められた。(3) 共生菌の材内繁殖状況および産卵時の寄主木条件が次世代の生育に及ぼす影響1.材からの菌の再分離試験の結果、ニトベキバチを新鮮アカマツ丸太(伐倒後17日目)に産卵させた場合、産卵から3ヶ月後には産卵時に接種した共生菌のA.areolatumが約30%の相対優占度で再分離された。しかし、古丸太(同56日目)に同様に産卵させた場合には、3ヶ月後A.aeolalum は全く分離されず、Trichodermaspp.など共生菌以外の菌のみが分離された。ニホンキバチの場合も同様に、新鮮スギ丸太(同4日目)に産卵させると、3ヶ月後には接種共生菌であるA.chailletiiが優占度約60%という高率で再分離されたが、古丸太(同76日目)への産卵ではA.chailletiiは全く分離されなかった。また、新鮮丸太への産卵の場合でも、産卵から10ヶ月後にはA chailletiiは約20%の優占度にとどまり、産卵後2年経過した丸太では、産卵孔、坑道周辺いずれからも全く分離されなかった。2.アカマツの新鮮丸太に産卵したニトベキバチの次世代の羽化脱出までの生存率は13~32% (平均22%)であったが、同様に産卵させた古丸太からは、次世代成虫は全く脱出しなかった。一方、林内において5、7、9、11月にスギ、ヒノキ生立木を伐倒し、伐倒時期に関連したニホンキバチの繁殖状況を調べたところ、それぞれ丸太10本あたりからの羽化脱出数は、0.8、15、5.3、0頭で、ニホンキバチの発生ピークにあたる7月の伐倒木からの脱出数が圧倒的に多いことが明らかとなった。(4) 天敵生物がキバチ個体群に及ぼす影響1.ニトベキバチに加害されたアカマツからは、オオホシオナガバチ(Megarhyssa praecellens)とヒラタタマバチ(Ibalia leucospoides)が羽化脱出した。キバチの幼虫ステージ後半で寄生するオオホシオナガバナのメス成虫の平均生重は、卵または1齢幼虫に寄生するヒラタタマバチに比べ、秋脱出個体群では1.8倍、春脱出個体群では4.1倍も大きかった。また、オオホシオナガバナの卵長はヒラタタマバチの10倍であったが、卵数は50分の1であった。一方、2種の寄生蜂によるニトベキバチの寄生率は60%以上と高い値を示していた。これらの結果、形態的特徴、脱出時期、寄生ステージの異なる2種が、ニトベキバチの寄生蜂として共存していることが確認された。また、本研究における両種による寄生率の高さから、野外におけるニトベキバチに対する寄生圧はかなり高いものと推測された。2.スギに寄生するニホンキバチ、オナガキバチの寄生蜂として、いずれもヒメバチ料のオオホシオナガバナ、シロフオナガバチ(Rhyssa persuasoria)およびPseudorhys・sa sternataが脱出した。3種の蔵卵数、産卵管長には有意差はなかったが、P. sternataは唯一労働寄生性であり、またシロフオナガバチとP.sternataはその生活環の中に休眠過程を持っていたことから、これら3種の寄生蜂は、互いに異なる寄生様式・寄生時期を持つことによって共存していることが示唆された。また、オオホシオナガバナによる寄生率は9%、シロフオナガバチでは10%、P.sternataでは7%であった。3.ニトベキバチメス成虫のうちの70%、ニホンキバチではその30%がDeladenus属線虫に感染していた。またオナガキバチでは、 1年目脱出個体群には線虫感染個体は認められなかったが、2年目脱出個体群では55%が線虫に感染していた。3種のキバチで線虫に感染していたメス成虫のうち、不妊化していたものの割合はきわめて低かったが、平均生重は3種とも感染個体の方が非感染個体よりも小さく、またニトベキバチでは、感染個体の方が生存日数が有意に短かった。このように、線虫感染はキバチに対して体サイズの小型化に伴う蔵卵数の減少あるいは生存日数の低下に伴う産卵期間の減少により、キバチの次世代生産能力を低下させている可能性が強く示唆された。4.あるアカマツ被害木では、脱出したニトベキバチのうちの約半数が、昆虫寄生菌の一種であるボーベリア菌(Beauveria bassiana)に感染していた。さらにそれらの次世代の中にも本菌に感染している個体が認められた。しかし、感染個体における生重、生存日数および産卵率の減少は認められなかった。以上の結果を総合して、次のことが示唆された。1.産卵時の寄主木の状態は材内での共生菌の繁殖に大きな影響を及ぼすことから、共生菌を持つキバチのメス成虫は菌の繁殖に好適な寄主木に選択的に産卵する。また、自らは共生菌を持たないオナガキバチでさえ、他のキバチの共生菌が繁殖している木に選択的に産卵していたことから、キバチ幼虫はこのような菌が繁殖可能な寄主木でのみ

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