ブラジル・アマゾンの開発による森林減少問題 : 森林伐採が生態系と地域社会に及ぼす影響

書誌事項

タイトル別名
  • The Impact of Deforetation in the Brazilian Amazonia : Change on Ecosystem and Social Environment
  • The impact of deforestation in the Brazilian Amazonia--Change on ecosystem and social environment
  • impact of deforestation in the Brazilian Amazonia Change on ecosystem and social environment

この論文をさがす

説明

世界で最大の連続した熱帯多雨林を有するブラジル・アマゾンでは,現在,開発プロジェクトによる森林伐採が進行中であり,年間約3億トンの二酸化炭素が大気中に排出されているが,具体的な森林破壊による影響を表す実証データは意外に少ない。そこで,本研究は,ブラジル・アマゾンを対象として,最近の大規模な森林伐採による気候と環境,地域社会への影響を,現地調査をふまえて検討したものである。本研究で用いた研究方法と結果は,以下の通りである。(1) 森林伐採の気候への影響気候に関しては,Nobreら(1991)による,ブラジル・アマゾン全体が放牧地になったと仮定した場合のGCM(大気循環モデル)予測が広く流布されているが,熱帯雨林の全域が100%放牧地になるという仮定は,現実的ではないと思われる。そこで,開発による森林伐採が,気候変化にどのように影響するものであるかを実証するため,熱帯林からの蒸発散量を指標として用いることとし,開発の度合いが異なるアマゾンの複数の小流域を対象に,水収支法に基づく水文解析を行った。対象地域として,法定アマゾン(ブラジル・アマゾンを形成する9つの州)の中で開発が最も遅れており,最近になって非常に大規模な森林伐採が行われたロンドニア州を選定した。土地の改変の分析には,INPE(ブラジル国立宇宙局)により直接入手した, ロンドニア州の5つの衛星画像データを用いて,リモート・センシング解析を行った。また,水文解析には,ANEEL(ブラジル水源エネルギー省)から直接入手した,流量データと雨量データを用いた。水文データ解析の結果から,開発地域であるTabajara,Ariquemes,Jiparanáの3流域における流量は増加傾向にあり,雨量は減少傾向にあること,また,未開発地域のPedras Negras流域では,蒸発散量が多く,雨量も多いことが明らかになった。ブラジル・アマゾンで一般的に受け入れられている植物地理帯基準では,年間蒸発散量が1000mm を切ると,熱帯林の生育に必要な水分量が不足して森林の成立は困難になるため,植生はCerradoと呼ばれるサバンナに分類される。開発地域のTabajaraにおける蒸発散量について見てみると,1980年以前には1000mm以上あったものが,1981年以降は平均700mm台に低下している。これは,この地域が,植物地理帯での熱帯林からサバンナに移行していることを意味するものである。この結果は,この地域で1970年代後半に植民計画プロジェクトが大規模に展開されるようになったことと照応しており,開発の影響が具体的に蒸発散量の数値に反映した形で示されていることになる。また,水文学的には,アマゾンの熱帯林での流出率は一般は0.1とされているが,今回の水文解析の結果では,開発地域での流出率は0.3~0.5という値となった。これは,この地域が30~50%の土地の改変を受けたことを示唆している。他方,衛星画像データの解析では,開発地域において30~50%の森林が消滅しているという結果が示されており,水文解析の結果と対応していた。以上の結果から,従来のGCMモデルに基づく解析方法では感知しえなかった,森林伐採率の異なる小流域において,それぞれ異なった開発状況が生態系と気候に及ぼす影響が貝体的に明らかになった。(2) ブラジル政府による森林保全政策の実態熱帯林保全政策として,ブラジル政府は,アマゾンの森林を保全地域と農業用地に分け,生態系と地域住民の生活を守ることを意図して,ゾーニング計画を打ち出している。しかし,この政策に関する報告は,海外ではほとんど知られていないため,本研究では,ロンドニア州で行われているゾーニングについて,その実施状況を把握するため,Porto Velho市,Jiparaná市,及びKaritiana村の3箇所を現地調査した。ロンドニア州の場合,州全域が,a)市街地を含む集約的な商業用農産物生産農地,牧畜とアグロフォレストリー,b)小規模の農業用地, C)川辺の住民の季節農地及び魚の養殖地,d)林産物奨励地域, e)商業木生産地,そしてf)永久森林として保全される区域と先住民保護区,の6ゾーンに分けられていた。現地調査した対象地は,それぞれPortoVelho市(市街地):aゾーンとJiparaná市 (農地:Tancredo Neves植民プロジェクトの農地):aゾーン,及びKaritiana村(先住民保護区):fゾーンの指定地域であった。現地調査の結果,aとfのゾーン内では,森林保全に関しては機能しておらず,細かい取り決めは守られていないことが明らかとなった。すなわち,開拓農民がブラジル政府から開墾のために許可されている森林伐採率(50%)は,aゾーン内のJiparaná市ではほとんど守られていなかった。また,fゾーン内にあるKaritiana村では,ブラジル政府公認の先住民保護地区であるにもかかわらず,1997年にも盗伐や砂金採りによる不法侵入を受けていた。(3)森林伐採が地域社会へ及ぼす影響ブラジルが16世紀にポルトガル人によって「発見」された当時,700部族,500万人の先住民がいたと推定されている。それが,現在では146部族,21万人に激減し,そのほとんどがアマゾンに住んでいる。最近では,アマゾン開発によって多くの部族が消滅し,白人がもたらした病気によって亡くなったり,心無い人々によって村を焼き払われたり,殺されたりしている。ロンドニア州では,先住民の85%がブラジルの幹線国道BR-364号線の建設によって,直接的または間接的に殺されてしまった。このように,つい最近まで,アマゾンの先住民は,ブラジルのなかで人間としての扱いを受けてこなかったのであるが,近年,ようやく彼らの人権や土地所有権をめぐり,広く論議が行われるようになってきた。森林伐採が地域社会へ及ぼす影響の如何に関しては,FUNAI(国立インディオ基金)やNGO(非政府組織)などの活動報告と,Karitiana部族のリーダーとの私信などを通じて,ロンドニア州では,1991年にCUNPIR (南西アマゾンの先住民部族からなる組織)が結成されており,彼らの人権,土地所有権,及び森林の保全の必要性に関する見解に関して,ブラジル政府に意見書を送っていることを知った。そこで,CUNPIRのそれら森林の所有権や森林環境に関する考え方が現実にはどのように機能しているのか,また,Karitiana部族が,開発による森林伐採によって伝統的な生活様式にどのような影響を受けているのか,という点について実証するため,1997年8月に,ロンドニア州PortoVelho市から西へ95kmの位置にあるKaritiana村を,2日間にわたって現地調査した。その結果,以下のことが明らかになった。CUNPIRに関しては,現地調査した時点では,大地主との間に利害関係が絡んだため,いくつかの部族が,白人の大農場主に買収され,組織の内部に亀裂が入り始めていた。Karitiana村に関しては,開発の始まる前の1971年時点で5000人いた部族は,アマゾンの主要幹線道路である国道BR-364号線の建設などの開発のために,一時期はその人口が12人にまで減少してしまったが,1997年現在では207人にまで回復していた。そのうち11人が他の部族の者であり,また24人は,Porto Velho市にあるFUNAⅠの「インディオの家」に住んでいた。村の人口の約7()%が子供たちで占められており,年寄りは殺されたか,病気で亡くなってしまっていた。彼ら先住民が現在かかえている,一番切実で大きな問題点は,経済的自立,交通手段,及び医療に関するものであった。彼らは,現在では,もともと住んでいた,豊かな森林に囲まれた,肥沃で広大な土地を追われ,近くにある錫採掘場によって汚染されたガルサス川が流れる,小さな先住民保護地区に移され,以前の伝統的なライフスタイルである,狩猟と焼畑の生活はできなくなっている。さらに,彼らの先祖が眠っているとされる,彼らにとっての聖地の上を高速道路が走っており,部族にとって最も大事な精神的な拠り所が奪われた状態に置かれている。現在では,開発プロジェクトを遂行する際に,先住民側とブラジル政府側との間で,環境アセスメントが行われるようになってきたが,最終的な開発プロジェクトの実施に関する決定権は,未だ政府側が握っている。また,1996年にブラジル政府が発令した法令1775/96によって,アマゾンの先住民の土地が新たに区画整理された結果,保護区は一層縮小され,小さい部族は消滅の危機にあることが明らかになった。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ