ネパールにおけるCommunity Forestry : NGO包含による援助プロジェクトの取り組み

書誌事項

タイトル別名
  • Community Forestry in Nepal : The Efforts of Aid Projects and Their Involvement with NGOs

抄録

開発途上国の多くは、植民地時代以降、国有化をはじめとする中央政府による一括した森林保護・管理が試みられてきたものの、その結果地域住民の森林に対する管理意識の低下から森林減少・劣化を招いてきた。1970年代になると、森林資源に依存した生活を送る人々のニーズを満たした形の森林管理を導入しない限り、森林減少に歯止めをかけることができないと認識されるようになり、日常的に森林資源を採取・利用する地域住民を森林管理の主体とした「参加型森林管理」の概念が生じてきた。参加型森林管理は、1970年代に発案された地域住民を主体とした森林管理のことを指し、持続可能な森林管理に基づく地域開発のための理想的な手法として考えられている。それ以降、多くが援助プロジェクトに支援されているが、数々の苦戦が報告されている。その要因として、プロジェクトスタッフ等の外部者による一方的な支援計画に基づいたプロジェクトの実施が地域のニーズに沿わず、結果として参加型森林管理の本質である「地域住民の参加」、「活動の持続性」、「自立性」が導けなかったことが挙げられている。従って、援助プロジェクトは、地域のニーズが把握できるようなプロジェクトのアプローチ方法を用いることが重要であると考えられるが、既往の研究の多くが地域住民の「参加」、「活動の持続性」、「自立性」を導くためのインセンティブを探索するものであり、援助プロジェクトのアプローチに関してはその重要性が示されているにもかかわらず研究は殆ど存在しない。本研究は、早くから参加型森林管理に取り組み、多数の援助プロジェクトのもとにその導入・普及に成功していると言われているネパールにおいて、1)援助機関による支援の全体像をとらえ、2)各援助プロジェクトにおける地域住民の参加・活動の持続性、自立性を導くための取り組みの現状を把握し、3)実態調査に基づいて、その取り組みがどの程度機能しているのかを実証した。そのうえで 4)その取り組み方法の課題および今後の可能性を明らかにしたものである。まず、ネパールの森林・森林政策及び複数の援助機関による支援の全体像を把握し、現状における問題点を明確にした。多くの開発途上国と同様に、ネパールにおいても、1957年の私有林国有地化法、1961年の森林法および1967年の森林保護法の制定によって、一部の私有林を除く全ての森林が国有林となり、地域住民の森林資源利用を厳しく制限した中央政府レベルの森林管理が試みられた。これにより伝統的な森林管理が非合法とされ、住民の森林管理意識が消失し、森林の乱用と減少に拍車をかけたといわれている。この森林に依存する地域住民を無視した形での中央政府レベルの森林管理の限界からネパール政府は、1976年国家林業計画の制定以降、地域住民を含めた森林利用・管理へと政策の転換をはかってきた。同年には、森林省にCommunity Forest課を設け、また森林回復のために国有林の一部を行政村に委託して森林管理や植林を行うプログラムがFAO(国連食糧農業機関)と世界銀行によって開始された。1978年のパンチャヤット森林規約ではパンチャヤットへの森林管理の移譲が、また1988年のMaster Plan for the Forestry Sector において森林利用・管理活動の主体である森林利用グループ、Forest User Group (FUG)への森林管理の移譲が認められるようになり、Community Forestry (CF) も新しく定義された。さらに1933年にはマスタープランに基づいた新しい森林法を公布し、森林の所有権が国家にあるという明記とともに、FUGsを正式な自治団体として認めた。また、住民参加によって森林を生育し、林産物収入を地域の発展に利用すべきとの提言がなされ、森林管理は地域の森林利用者を主体とした体制へと転換されてきた。このネパールのCFは、多数の海外援助機関から支援されている。中でも1990年代前半から集中的に実施されているのがアメリカ・イギリス・スイス・デンマーク・オーストラリアの6カ国による二国間援助プロジェクトであり、ネパール全75群のうち59群でプロジェクトが実施されている。これら二国間援助プロジェクトの開始以降、ネパールのCF設立数は急激に増加しており、2000年までには1万近いFUGが設立され(2003年5月現在12,569)、約100万haの森林がCFとして移譲されている。これらのことから、ネパールはCFの導入に成功した国の一つとして挙げられるが、CFとして移譲された森林面積は、ネパール政府が“移譲可能”としている森林面積(356万ha)のおよそ3分の1であり、まだ移譲の余地がある。しかし、急激なCF設立数の増加によって、群森林官の任務であるCF新規設立への支援とCF設立後の適切な管理を導く支援との両立に困難が生じており、年間設立数も近年減少傾向にある。この状況を緩和し、更なるCFの普及と拡大を図るには、群森林官の任務の一部を代行できる組織を育成し巻き込む必要があり、ネパール政府及び援助機関はともに該当組織としてNGOに注目していることが明確となったが、NGOの包含に関する実態は明らかにされていなかった。6つの二国間援助プロジェクトにおけるNGO包含の現状を把握し、各プロジェクトのNGO包含の方法・NGO包含の目的及び問題点を明らかにした。各二国間援助プロジェクトのNGO包含に対する目的及び方法には相違がみられるものの、全てのプロジェクトがCFプロジェクトのアプローチとしてNGO包含を重視しており、その包含が本格化していた。包含方法としては、アメリカ、オーストラリア、スイス、ドイツのプロジェクトで実施されている A)二国間援助プロジェクトとNGOがコントラクトを結ぶタイプ、デンマークのプロジェクトが実施している B)郡森林局とNGOがコントラクトを結ぶタイプ、イギリスのプロジェクトが実施している C)コントラクトを結ばずに協力・強調するタイプ、の3タイプの存在が確認された。AタイプはNGOに対しても最も多くの期待を抱き、積極的にNGOを包含していた。またその目的は、郡森林官によるサポート不足を補うことのみでなく、参加型心理管理プロジェクトにおける困難の要因である。「地域住民の参加」、「活動の持続性」、「自発性」をNGO包含によって導こうとしていることが確認された。しかし、NGO包含は、CFの管理主体であるFUGに対する実態調査に基づく影響が明確にされないままに本格化していた。最も主流なNGO包含方法が援助プロジェクトとNGOがコントラクトを結ぶAタイプであり、NGOの包含を積極的に実施していたスイスプロジェクト地域を調査対象地域とし、森林管理の主体であるFUGを調査対象としてNGO包含によるFUGへの影響の実証を試みた。支援者としてはNGOと既設のFUGが存在しており、既設のFUGがサポートしたFUG、NGOがサポートしたFUG、郡森林官以外のサポートを受けていないFUG、の3タイプのFUGを1グループずつ抽出してNGOのサポートが現在及び今後の森林管理の実施を左右すると考えられる「森林管理に対する意識」を測定し、グループ間で比較することでNGO包含の影響を測った。FUGおよびNGOによるサポートの内容は、「CFの設立に対する支援」のみである。援助プロジェクトのNGOの主要目的として、郡森林官によるサポートの不足を補うこと以外に「参加」、「活動の持続性」、「自立性」につながっていくことを期待するものが挙げられていることから、リッカート尺度(5件法)を用いて、①Satisfaction(どの程度CFの主機能に対して満足しているのか?)②Activeness(現在どの程度CF活動に対して積極性を持っているのか?)③Self-reliance(どの程度今後のCFに対して主体的展望を持っているのか?)の3つの尺度によって“森林管理に対する意識”の測定を行った。この他に、CFに関する知識を測定する項目およびその他の項目を準備し、フェイス項目と共に244世帯に対する調査を個人面接法で実施した。その結果、Satisfaction、Activeness は3タイプのFUG間で平均態度得点に差がなく、NGO包含の影響はみられなかったものの、Self-relianceとCFに関する知識においては、3つのFUG間で有意差がみられ、NGO包含の影響がみられた。また、森林管理に対する意識はNGO包含の有無以外にも、カースト、性別、収入、支出などの文化、社会、経済的因子に大きく影響を受けていた。したがって、影響がある部分とない部分があった要因としては、文化、社会、経済的な背景の影響が強く、NGO包含による影響が測れなかったことと、NGO包含によるサポートがCFの設立に対するサポートのみで、設立後の参加や持続性を促すための活動は含まれていまかったことから、サポートがなされた部分にだけ影響が出たという2点が考えられた。したがって、援助プロジェクトが今後もNGO包含に対して「地域住民の参加」、「持続性」、「自立性」を期待するのであれば、文化、社会、経済的背景を考慮したNGO包含と、CF設立支援に限らない、より深く幅広いNGOによる支援の実施が求められる。以上の結果により、以下の課題と可能性が導かれた。NGOによるサポートはCFに関する知識を導いており、CFに関する知識がある人程、森林管理に対して高い知識を持っていたことから、現行のNGO包含においてもCFに関する知識の向上から、森林管理に対する意識の向

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