≪Les conquérants≫ⅾ'Andre Malraux comme un roman psychologique

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抄録

フランス文学の根本的特質は人間情念の分析にあり, 人間をあらゆる央雑物から切りはなし,その内面を熟視し, 分析・描写するところからモラリストの文学ともいわれている。コルネイユからプルーストにいたるまで, みせかけの仮面をひきはがされた人間, それが彼らの文学の主人公なのである。従って, フランス文学史上, 心理分析の作品が占める割合はきわめて大きい。 しかし, この小論においては, 心理描写という手法を駆使して書かれた作品, 文学のージャンルとしての心理小説であって, 上に述べたようなフランス文学全般をさしているものではない。この前提の下に論をすすめる。 ところで,「征服者たち」は,1925年の広東革命をその背景に, 主人公ガリーヌと彼をとりまく十人の多彩な人物たちを, 語り手<私>の目をとおして描いたマルローの最初の長編小説である。スクンダールの人物を窃彿とさせる主人公は, 文宇通り革命にそのすべてを賭ける行動と意志の人であり, このかぎりでは,「征服者たち」を行動主義の小説あるいは冒険小説とみなすことができよう。 しかし, マルローは, その中で登場人物の心理を刻明に描くことによって, 冒険小説と心理小説という二つのジャンルを見事に結合させているのである。革命という異常な状況の下で生きる人間, 死を前にして死に抗して生きる人間, 彼らの心の動きを特異な技法―人物・場景描写―によって表現している。 この小論では, こうしたマルロー独自の冒険小説の中の心理小説的要素を抜き出し具体的に検討してみた。 文学のジャンルが多岐にわたり, 小説の危機が叫ばれている今日, 際限なく広がりつつある領域のどこに文学個有の境界を見い出すべきなのであろうか。 このような観点からすれば,「征服者たち」が果している先駆的役割は大きい。また, この作品は, 冒険小説と心理小説を結びつけたという単なる小説技法の点だけでなく, 現代文学が直面している問題に新たな方向性を与えたという意味でも評価されるべきであろう。

収録刊行物

  • Artes liberales

    Artes liberales 10 79-92, 1972-10-20

    岩手大学教養部

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