英国イースト・アングリア地域における水道メーターの導入と水需要・社会福祉

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  • Demand Effects and Social Welfare of Water Metering in East Anglia

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抄録

近年英国では,将来の水資源の逼迫への懸念から,水需要を節減させる効果をもつ水道メーターの設置(すなわち従量式の水道料金制度の導入)が推進されている。本論文は,英国東部のイースト・アングリア地域を事例として,水道メーターの導入が,一般家庭の水需要および社会福祉に与える影響を明らかにすることを目的とする。第1・2章は,研究の背景・目的を述べるとともに,既往研究のレビューに基づき研究課題を特定する。第3章は,ミクロ消費者理論にもとづいて,水道メーターの導入と家庭の水需要の関係性を理論的に考察する。前提条件として,当該地域の現況に基づき,当初各家庭は固定料金(各家庭の不動産価格に比例した料金)を支払っており,水道メーターの設置(従量料金制度への乗換え)は任意であるとする。これら前提のもと,以下の3つの命題が理論的に導かれる。①ある家庭の水需要の飽和点(固定料金下(水の限界費用がゼロの時)の水需要量)が小さければ小さいほど,その家庭は,従量料金制度に乗り換えるインセンティブが高い。②ある家庭の不動産価格が高ければ高いほど,その家庭は,従量料金制度に乗り換えるインセンティブが高い。③ある家庭の不動産価格が高ければ高いほど,その家庭が示すDEM(Demand Effect of Metering:水道メーター導入のもたらす水需要削減効果)は小さい。第4章は,当該地域の主要な水供給公社であるAnglian Waterの提供する交差系列データを用いた多重回帰分析等を行い,前章の命題を計量経済学的に実証する。ところが,命題①により,交差系列データを用いた多重回帰モデルにおいては,推定されたDEMに偏りがあることが示唆される(内部性の問題)。実際,メーター設置ダミー変数を内生変数とした同時方程式モデルによる検討から,多重回帰モデルはDEMを過大評価する傾向があることが明らかとなる。そこで,第5章は,パネル(交差時系列)データを用いた回帰分析を行い,内部性の問題を解決する。結果として,平均13%のDEMが観察される。(すなわち,水道メーターの設置は,家庭の水需要を平均13%減少させることが推定される。)さらに,メーター設置ダミー変数と不動産価格の比を説明変数に加えることによって,家庭の不動産価格とDEMの間の反比例の関係(命題③)を実証する。第6章は,厚生経済学理論に基づき,社会的にみて効率的な料金制度のあり方を論じる。前提条件として,水供給側が各世帯の水需要関数を把握しているとし(完全情報の仮定),ここでは,前章で実証した命題③を援用する。結果として,社会的にみて効率的な料金は,水道メーター設置の純費用(=粗費用-設置の社会的便益)を,従量料金の値上げによって補填するような(予算中立的な)料金体系であることが理論的に推察される。ここで,メーター設置の社会的便益は,DEMによる水供給費用の節減であると把握される。したがって,命題③により,高所得の(高い不動産価格の住宅を持つ)世帯ほど,メーター設置の社会的便益(DEM)が小さい(すなわち設置の純費用が大きい)ので,そのような世帯に対しては,従量料金を高く設定することが望ましいと推論される。さらに,前章までの実証分析結果に基づき,そのような特性をもつ累進的な従量料金制度を具体的に提案する。第7章は,研究の総括を行うとともに,今後の研究の方向について論じる。本論文の成果は,水道料金のみならず,農業用水等の料金制度と水需要を考察するうえでも有用な情報を提供する。とりわけ,以下のような事例(条件下)に適用することが最も有用であると考えられる。①水需給が逼迫しており,水需要の削減が大きな社会的便益を生み出すこと。②従量料金制度への乗換えが任意であること。③水需要削減のインセンティブが各々の需要者によって異なり,その差異を水供給側が定量的に把握できること。

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