「無能力者」についての研究ノート 九鬼周造の哲学から

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タイトル別名
  • La pensée sur I' 《impuissance》 chez la philosophie de Syuzou Kuki
  • ムノウリョクシャ ニツイテ ノ ケンキュウ ノート クキ シュウゾウ ノ テツガク カラ

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研究ノート

十九世紀から二十世紀にかけて、人間の無能さ・無力さを示すことを活動の基底に置く芸術家・哲学者の一群が存在する。それは、アントナン・アルトー、カフカ、ハーマン・メルヴィル、サミュエル・ベケット、ジル・ドゥルーズ、ジョルジョ・アガンベンなどが形成する一群である。アルトーの「impouvoir」やドゥルーズの「impuissance」、アガンベンの「impotenza」という用語から、彼らの描く人間を「無能力者」と呼ぶことにしたい。ところで、この無能力者を思考する一群には、今のところ特定の一貫した理論があるとは言えない。しかし、彼らは無能力者という一見否定的な概念を、肯定的なものとして理解している点で共通している。本稿は、無能力者とそれが描き出す領域に、九鬼周造の哲学を通して、ひとつの理論を与えることを目指す。九鬼哲学自体、無能力者をその思想の基底に置くものであり、それは九鬼によって「偶然者」と呼ばれるものである。まず一章で、『「いき」の構造』から「無能力者」概念を引き出す。次に第二章で、無能力者という概念が『偶然性の問題』において、どのような事態を描くことを可能にし、そこでどのような存在論的身分を持つかを検討する。第三章では、偶然性の議論が時間と関わるかぎりで時間と無能力者の関わりを示す。最後に四章では、無能力者の身体や空間への関わりを考察する。全体を通して、人間の無能力を肯定する事態についてひとつの見通しを与えることを目指す。

収録刊行物

  • 年報人間科学

    年報人間科学 30 175-190, 2009

    大阪大学大学院人間科学研究科社会学・人間学・人類学研究室

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